2008-01-01から1年間の記事一覧

非芥川賞作品をめぐって

en-taxi最新号の特集「非芥川賞作品のピトレスクな輝き」が面白かった。文壇の変化というか変わらなさというか、日本文学の変遷をこんなところから眺めていくという視点は新鮮だった。それから南博(ジャズ・ピアニストです)が連載を始めたよ。 enーtaxi v.…

「いかに倫理を貫くか」、それとも「いかに自分が生きていける世界を作れるか」

年賀状を印刷したらパソコンがいかれてしまったので、何をやっても中途半端になるだけと開き直って、仕事がらみのものはすべて放り出して、雑誌とブック・オフで拾ってきた本を読みふけった。それをいくつかピックアップ。だから、もちろん、これの前あたり…

立川談春大独演会@大阪フェス

また行っちまった。今年これで何度目かねー。それも大阪くんだりまで。暴挙とも言われる、今年でなくなってしまう大阪フェスティヴァル・ホールへのお別れもかねてって、これが2度目のフェスなのだけれど(そして、どうせなら、翌々日からの山下達郎もみて…

ドン・キホーテ

演出 原田一樹 静岡芸術劇場 さて、『ハムレット』のつぎは『ドン・キホーテ』。ハムレットはひたすら個人の内面に終始してしまうひとであり、それを幼いと言うむきもあるわけだが、それでいくとドン・キホーテはひたすら騎士を外面的に模倣しようとしている…

NUBA

前々から欲しかったんだけど、(高そうだし)まあ入手できないだろうと思っていた、レニ・リーフェンシュタールの有名な写真集The Last of The Nubaを格安(って言ってよいと思う)で入手できてしまった。もちろん、古本ですが。で、記念にここにそれを記す…

『大丈夫であるように』

Coccoなんてヒット曲以外聞いたことがないのだが、監督が是枝さんなので行って見た。見ていて、痛々しいほど感じずにはいられなかったのは、この人いろんなものを背負っちゃう人なんだなということ。そうすると、職業柄、親子関係はどうだったんだろうとか気…

矢野顕子「さとがえるコンサート」

こちらで勤め始めた2年目あたりに、年末に矢野顕子のコンサートへ行き、とっても満足。これから毎年アッコちゃんのコンサートで年末を締めるんだと固くこころに誓ったはずなのだが、それ以降なぜか「さとがえるコンサート」の日は、必ず仕事がかぶって晩の…

『ヤング@ハート』

すべりこみで見てきた『ヤング@ハート』。要するに、お年寄りたちのコーラス隊をおっかけたドキュメンタリーなのだが、その持ち歌がすごい。ドアタマから92歳のおばあちゃんがソロをとるShould I Stay Or Should I Goにぶちかまされた(それに歌う方も聴…

The Who

(おそらくは最初で最後の単独)来日したからというわけでもないが*1、最近、もっぱらフーばかり聞いている。棚からいろいろ引っ張り出したら、いつの間にか結構な数のフーのCDがそろっていた。それをとっかえひっかえ聞いているのだが、ボクの受ける印象と…

ヴィルヘルム・ハンマースホイ

人づてにいいよと聞いていたので、上京したついでにホントにすべりこみで見てきた。たしかに、これは行く価値があった。まずは、人はもちろん、家具すらおかれていない部屋を描きながら、その描かれた空間に惹きつけられというのがなんとも不思議。その絵に…

吉増剛造

詩人吉増剛造を迎えて、彼がgozoCINEと題してとり続けている映像作品を見ながら、彼を囲んで話を聴くという催しがあったので行ってみた。ボクはどうにも詩が苦手で、吉増氏の詩もほんのいくつか眺めたことがある程度なのだが、どんな映像を撮るのかが気にな…

フェリーニ、フェリーニ

『甘い生活』(1959) I Love Fellineと言いつつ、『甘い生活』を見るのは二度目。改めて見ると、前回は随分と大まかに見ていたものだと思う(また見ればきっと同じように思うに違いないが)。フェリーニの映画には不思議な明るさがあって、というかそもそも映…

立川談春独演会:『鼠穴』

また行ってしまった。次は、大阪、それもフェスティバルホールで「芝浜」やるってんだけど、どうしよう?今日、演ったのは「厩家事」に「鼠穴」。話のとりあわせとしてもよかったんじゃないか。まず、「厩火事」で、惚れる女も女ならそれにつけこむ男も男だ…

福田恒存『人間・この劇的なるもの』

その昔、いつでも手にはいると思っているうちに、いつのまにか手に入らなくなり、あれどうしようと思っていたら、いつのまにか再版されていた。そのブツをたまたま見つけたので購入。ハムレットが取り上げられているというのもうまいタイミング。読んでみた…

七夜待

長谷京が出ているのにちっとも話題にならず、他方で、河瀬直美が長谷京使うの?というのもあって、どんなものかしらんと思いつつみてきた。見てみたら、これも世界との和解は可能かという主題のヴァリエーションと言えないこともない。 得意の長回しはなかっ…

to be, or not to be

『ハムレット』(演出:宮城聰) 静岡で宮城聡演出の『ハムレット』を見てきた。宮城さんは、昨年から静岡芸術劇場の舞台監督に就任していたわけだが、ボクが就任後の彼の演出作品を見るのはこれが初めて。というわけで、とても楽しみ。そして、期待にたがわ…

Wの悲劇

内海健『パンセ・スキゾフレニック』 なんとかひとやま越えたので、内海本再訪。まだ読了してないんだけど、思わぬ気づきがあったのでちょっとメモ。 内海さんが統合失調症を論じるとき、しばしば引き合いにだす症例がある。ある学校で、下級生のトレパンが…

なにげに今日もまた

つげ義春を読んでいる。まあ、それは「たぶんわたしたちがじぶんの生涯を無償なものだとみなしたい気持ちが、見栄としてどこかにとぐろを巻いていた証だと思う」ということで。 義男の青春・別離 (新潮文庫)作者: つげ義春出版社/メーカー: 新潮社発売日: 19…

何をするというわけでもなく、

つげ義春なんぞを読んでしまっている。ほんとはそんなことをしているバヤイではないのだが、まあ「おまえが思っているほど、おまえはたいしたやつじゃない」ってことで。ちくまで全集が文庫化されるらしい。 ねじ式 (小学館文庫)作者: つげ義春出版社/メーカ…

「まったく信ずるに足らない世界で信念を持ち続けている人間、つまるところ破綻した人間を、私の映画の主人公にしたかった」。

『コロッサル・ユース』 さて、ペドロ・コスタの新作の方はどうかというわけで出かけて見たのだが(なにせ1週間しか上映期間がないのよ)、こちらは最初のカットから惹き込まれた。とにかく、映像が美しいのだ。とくに光りの感じが。前作よりはストーリーら…

石井幸夫「エスノメソドロジカル・ターン」

ちょっと作文をしているのだが、書き始めてみたら、これってここに書いてあったことと同じ話になるんじゃなかろうかと思って確認。もう、これ、十年前の論文になってしまうのですな。 石井幸夫「エスノメソドロジカル・ターン」(1998) 『情況』「特集社会…

ニャロメは超人である

だって、そうでしょ? ニャロメ!!―「もーれつア太郎」より (ちくま文庫)作者: 赤塚不二夫出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2003/05/01メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 44回この商品を含むブログ (6件) を見る

「ヴァンダの部屋」再訪

ペドロ・コスタの新作公開にあわせた再映ということで二度目の挑戦だけどまだ駄目だな。この映画を見たっていう気になれない。どういう映画って言えば、解体されつつある住宅を不法占拠している移民が、何をするともなくドラッグやって云々という日常が描か…

成田善弘『贈り物の心理学』

前述の境界例の本のなかに、患者からの贈り物の話があって、もしやと思って調べてみたら、この本を発見。フロイトと贈り物の関係が論じられたり、臓器移植をはじめ、移行対象や内観療法も贈り物という観点から吟味される。でも、いちばん印象深いのは、やは…

ミリカン『意味と目的の世界』

懸案だったミリカンの本をやっと読了する。文脈を追跡して意味を把握するという点では、言語記号と自然的記号は連続した関係にあるとか(174-5頁)、「現在と未来の状態や出来事に加えて、われわれは、投射される目標状態もこの共通の表象体系によって表象され…

内海健『スキゾフレニア論考』

木村敏以降の分裂病論の展開ということではこの本、きわめて明快だと思う。 筆者は分裂病の本質を根本的には時間の病理に由来するある種の背理性であると考える。そしてその発病過程は、主体にとって不可欠の構成契機である企投と被投性の両者の相補性の解離…

道徳教育の担い手

もはや旧聞に属するのかもしれないが、日教組が道徳教育に反対しているから、日本が駄目になるとか、「モンスター・ペアレント」がはびこるといった発言が複数の自民党議員から飛び出したわけだけれど、思うに、この人たちと「モンスター・ペアレント」には…

内海健『精神科臨床とは何か』

内海健『分裂病の消滅』のとりわけ前半が面白かったので*1、ほかの本も読んでみるべしということでいくつか彼の本を集めてきたのだが、チェックしたなかでは「まあ、いいか」と思ったこの本をなぜか一番最初に読んでいる。講義をベースにしているから草臥れ…

なぜか豊川稲荷

なぜか高名な豊川稲荷へ行ってきた。豊川稲荷というぐらいだから神社だと思っていたら、基本的には寺なんですな。正確には、豊川閣妙厳寺というらしい。坊主が寺のなかにお稲荷さんを作ったとか。門を入るとさらに山門とその脇に鳥居があって、山門を進めば…

「どうやったらやり直せる?」あるいは「意味はありません」

冒頭、家のなかに風が吹き込んでいる。雨が降り出し、それが家のなかに吹き込んでくる。妻が現れて窓をしめて床を拭く。家の脇を電車が走るたびに、家はがたつき、両隣は空き地。この構図がこの家族のすべてを物語るだろう。すきま風が吹き、がたつく家族を…