すべりこみで見てきた『ヤング@ハート』。要するに、お年寄りたちのコーラス隊をおっかけたドキュメンタリーなのだが、その持ち歌がすごい。ドアタマから92歳のおばあちゃんがソロをとるShould I Stay Or Should I Goにぶちかまされた(それに歌う方も聴く方もわかっているはずだが、この歌ラブソングなわけだけど、彼女が歌うと意味が二重になってしまうのだ)。彼ら彼女らの持ち歌は、すべてロック。このおばあちゃんがソロをとったのはクラッシュの歌。つまり、パンクだ。そして、これがロックしてたりするのよ。
この歌はボクにとっては懐メロだけど、きっと彼ら彼女たちにはそれまで縁もゆかりもない歌だったろう。聞いてみると、みんなクラッシックが好きだ、オペラが好きだとか言っている。今回の課題曲とかいって聞かされても、音が大きすぎるとか文句を言ってたりする。若い(といっても中年の)指揮者の指導もきびしい。ところが、その歌をしあげていく姿が楽しそうなことこのうえない。つまり、彼らは現在を謳歌しているのであって、決して余生をおくっているわけじゃない。
しかも、彼ら彼女たちはこの合唱団を介して特別な絆をきずきあげている。なにしろ70代や80代のじいちゃんばあちゃんが歌っているのだ。いつお迎えがくるのかわからないし、毎回練習に来られるかどうかもわからない。実際、この映画の撮影のあいだに二人の重要な歌い手が死ぬ。
その一人の死が伝えられるのは、刑務所でのコンサートの目前で、このとき指揮者はいう。「仲間の死を伝えることで、彼ら彼女らは一つの同じ思いを抱いて歌うことができる。それが大切な別れの儀式になるのだ」と。そうして歌われるディランのForever Youngは秀逸。
誰に聞いても、「誰かが死んだからといってコンサートを中止しよう何て思わない」という。だって、「自分が死んだせいでみんなが歌えないなんて嫌だから」と。いつまで歌い続けられるかわからない。歌える瞬間がどれほど貴重なことか、それを痛いほど知っているのは彼ら彼女ら自身なのだ。いつまでもステージに立ち続けたいと願いながら、いつか自分がステージに立てなくなることを受け入れている。
私のような「若造」がこんなことを言うのもおこがましいが、ここに記録されているのは、生涯新しいことを試み続けていくなかで立ち上がってくる絆が、死を受け入れる覚悟をも育て上げていく稀有な瞬間だ。いや、おみそれしました。
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