「まったく信ずるに足らない世界で信念を持ち続けている人間、つまるところ破綻した人間を、私の映画の主人公にしたかった」。

『コロッサル・ユース』

 さて、ペドロ・コスタの新作の方はどうかというわけで出かけて見たのだが(なにせ1週間しか上映期間がないのよ)、こちらは最初のカットから惹き込まれた。とにかく、映像が美しいのだ。とくに光りの感じが。前作よりはストーリーらしきものがつかみやすかったというせいもあるかもしれない。といっても、一緒に暮らしていた妻に出て行かれた男ヴェントゥーラが、ただ自分の仲間(「家族」)のもとを訪れてまわるだけといって過言ではないし、それだって、映像をみながらそういうことなのかなと思われてくる程度のものなのだが。そのなかでたびたび繰り返される、ヴェントゥーラが立ちつくし、じっとどこかを眺めている姿が印象的。その姿はクローズ・アップのように彼の内面を浮上させるだろう。最初、その姿が極めて毅然としたもののように感じられていたのが、彼が彷徨していくなかでその姿により愁いが含まれているように感じられてくる。もっとも、それは単に憐れみをさそうようなものではない。
 カットのつなぎにせよ、セリフにせよ、詩的と形容したくなるようなところがあり、それをどうこうということになると、やっぱり一回じゃ十分見たとは言えないな。しかし、今回はもう一度見る楽しみが生まれてきたように思う。これであらためて『ヴァンダの部屋』も見てみたい。