ハドソン川の奇跡

 イーストウッドの新作といえば、必ず公開週には駆けつけていたのに最終日に駆けつける体たらくである。この間見落とした作品も多い。いや、そんなこともなくイーストウッドである。いつもながら自然な感じでゆったりと話は進んでいくのが心地よい。これも、ある意味映画的なお約束を破ったストーリー構成をいってよいのかな。
 旅客機をハドソン川に不時着させ、乗客全員を救った英雄である機長サニーは、まさに英雄としてメディアで騒がれながら、一方で、ハドソン川の不時着しなくても近隣の二つの飛行場に無事帰着できたはずだというコンピューター・シミュレーションの結果が出たからということで、サニーは審問にかけられるのを待っているのである。というわけで、ある意味ストリーの進行、それどころか結末まで予測される場面展開がまず設定されてしまうのだ。
 途中でサニーが軍人パイロットだったことが暗示されているが、本人は自分の決断に地震を持ちながら疑いをかけられ、でも、周囲にはにこにこと何気なくふるまってみせるのである。ここはトム・ハンクスの腕の見せ所だな。
 旅客機を避難的に着陸させるときには当然、いくつかの選択肢が考えられる。データを解析して今後の対処法に活かすというのなら話は分かる。ところが、乗客善意を救うことができたというのに、サニーの判断は誤っていたというのである。ばかげていると思うが、そこには保険会社の思惑があり、そのために働く人たちがいるわけですね。
 そんな前振りのなかで、本来ならクライマックスといってもよい不時着シーンがの場面が来る。てきぱきとして人々の動きが描き出されるのだが、これは間違った判断に基づいてなされた結果の一連の出来事だというのだからなんだか盛り上がりにかけるというわけである。
 そして、最期の審査委員会、ここも一つの見せ場になるわけだが、ここで組合の要請としてそのシュミレーションを公開させる。委員長は嫌みを言いながらシュミレーションを見せる。そうすると、たしかに二つの飛行場いずれでも着陸できた。何回練習させたと聞くと17回だという(笑)。サニーは、さらにこのシミュレーションにはヒューマン・ファクターが欠けているという。委員長はパイロットがヒューマン・ファクターだと答えるが、状況を判断して決断を下すには時間が掛かるはずだと。そこで、決断まで35秒の時間を加えると、どちらの飛行場にも着陸できない。
 で、実際のヴォイスレコーダーを聞く。委員長は機長と記録を聞いたのは始めたという。えっ。別のスタッフは、あらかじめこのことを知っていたかのように、成功するための要因X、つまりサニーが必要だという。だから、原題は『サニー』なのですね(個人的にはどこかで聞いたことがありそうな邦題はやめてほしかった)。サニーは、それは私だけではなく、副操縦士やスタッフ、乗客、不時着周囲にいたすべての人々だという。ちょっと、キャプラとかそういう世界をちょっと思い起こさせる。
 でも、ちょっと気になることもある。前半で、サニーは繰り返し飛行機がビルに追突する悪夢を見る。しかも、なぜかここだけもろにCGですよという感じで。指令通りにしていればこうなっていたはずなわけだ。オレにこうしろというのかといった感じになるだろうか?そうすると、われわれは、当然、ここで911を想起することになる。つまり、この映画は911の再現を避けることができるという話でもあるわけだ。そして、サニーは軍人パイロットあがりなのであある。そういえばこの映画のどこに星条旗ができたっけ。ちょっとだけ前作のあの臭いを感じてしまうのであった。