働くということ

 久々に読み返してみると、よい本だとは思う一方で話が飛ぶところと繰り返しが気になるな。話しおろしかしら。
むかしむかし、日本の労働の多様さ、勤勉の多様さ、不平等の多様さ。さて、いまは。 
1,ILOノーベル平和賞受賞。ところが、労働と雇用に関する規範や法律の形成に働く動機との葛藤。グローバリゼーションと先進工業国における労働世界の変化。経済競争力の強化。労働時間は長くなり、不平等は大きくなっている。
所得の不平等が大きい国ほど労働時間が長くなり、高額所得者が長時間働く傾向。米国。日本でも。裁量労働は仕事と余暇の時間をぼかす。競争の激化に伴う経営上の優先順位の変化と雇用慣行の変化。効率と株主価値の理論による自由市場主義哲学。ストック・オプション、コーポレート・ガヴァナンス、社外重役の導入。株価重視。日本経済の停滞。
従業員主権企業から株主主権企業へ。国策の変化。完全雇用から国際競争力重視へ。低インフレと経済成長の維持。産業政策黄金時代:労働組合、福祉保障による平等への関心。日本が一つのモデルに。ところが、競争力の平準化、コーポラティズムの失敗。市場によるインフレ抑制へ。 
2,規制緩和の時代。労働強化による人件費の切り詰め。QC活動。成果主義、年功制度。サッチャー革命に端を発する業績給要素の拡大。組合の迎合。富士通の失敗。成果重視と雇用不安。個人的満足感と社会的有用性。報酬格差の拡大とその公正さ。 
3,労働市場の柔軟性。生産効率上昇のための労働の慣習的規制に対する対抗と産業調整。「質的柔軟性/数量的柔軟性」、「内部的柔軟性/外部的柔軟性」。日本企業では、経済全体での労働資源の配分の効率性を犠牲にしても内部的柔軟性がもたらすプラスの面があった。が、改革派による介入。
資源配分の効率性と生産過程の効率性を一致させる。労働者保護の衰退。整理解雇の四要件。労働基準法の改正。中核従業員の保護と外部労働市場での非正規雇用の利用。失業の改善のために柔軟性の必要性が持ち出される。総賃金は低下。
株主価値の最大化と裏腹に従業員福祉が低下、階級闘争の押さえ込み、新古典派経済学の支配、個人主義がそれをうながす。しかし、就業者の平均勤続年数はほとんど変わらないし、中核労働者の維持は必要。
結果としての不平等の拡大。製造業の空洞化、市場に侵食された労働組合の弱体化、科学技術の進歩と学習能力。経営者報酬の増大。 
4,グローバリゼーション下で不平等が拡大するなかでの公正概念が変化。正義に関する不一致と正義の分割不可能性。;金持ちの良心(マーシャル)、保護貿易と労働者保護(ダイシー)、集産主義的傾向とに伴う労働者保護と社会保険による福祉国家ロールズ)、保険体制の不十分による累進課税生活保護という公的扶助の導入。
1960年代、OECDの市場個人主義セーフティネット最低賃金法と社会扶助で十分であり、就業インセンティヴを下げないために就業者給付を導入(負の所得税)。勤労倫理と人間の尊厳の相反。利潤動機の強化による効率性の追求。市場による報酬構造。公正さと努力を評価しない消費者主権。
上位(経営幹部)と中位の不平等の拡大;低賃金の発展途上国労働市場への参入、技術革新、スーパースター経営者。しかし、これでは十分に説明できない。株主主権、ストックオプションの導入による経営者と株主の利害の共有、報酬委員会やコンサルタントの導入、により規範が変化。
新自由主義による国家の介入の抑制、労使関係の無規制ならびに大量生産時代の終焉による組合の弱体化。連帯の記憶が薄れる、豊かな社会になる、性の革命、階級構造の変化。1977年以降、経済的、文化的、遺伝的要因による社会移動の停滞。多文化主義。人口動態の高齢化。年金の税負担から個人化。
改心の可能性;世界経済の不均衡、貧困層の悲惨が富裕層の生活を損なう可能性。BCの導入。失業概念(経済的非合理、尊厳の否定)の喪失。 
5,グローバリゼーションの影響。ILOの矛盾。多国籍企業。コスモクラットの登場:国への帰属感の弱まり、英語の標準化。アメリカの文化的覇権。市場:金融市場と世界市場。IMF。他方での、ホーム・バランス・パラドクス、金融市場のグローバリゼーションの後戻り可能性、各国の独立性、資本主義制度間に存在する差異:アングロサクソン型、ヨーロッパ型、日本型。資本主義の多様性。

働くということ - グローバル化と労働の新しい意味 (中公新書)