『いじめ 教室の病』

 あわせて旧著も読み返してみた。やはり、いじめを学級の病と捉えて学級の成員を①加害者、②被害者、③観衆、④傍観者、⑤仲裁者に類型化した分析は秀逸だと思う。学級という空間の意味づけとそこへ参入する動機付けが、多様化しかつ個人化したものになってきていることがよく分かる。
 まずは、子どもたちは学校生活に意味を認めることが困難になってきている一方で(35頁)、子どもたちの集団帰属は学級内関係へと一元化してきており(129頁)、それだけ子どもの人間関係がクラス内のそれに依存する度合いも大きく、それが「いじめ」の特徴にも影響を与えているということ。実際、学級のなかで発生したいじめ事件に直接かかわっている人数は、かなりの規模であり、いじめが発生すれば、学級の半数近くの児童・生徒がいじめに直接巻き込まれている(52頁)。とりわけ、中学になるとこの集団の規模が大きくなり、いじめっ子の多数が学級のなかの落ちこぼれである一方(115頁)、「いじめられっ子が特定の子どもに固定化する傾向がある」(66頁)。
 学級でいじめが起こる時、学級の成員はいくつかの立場に置かれることになり、それぞれが学校的な価値に対して違った態度を採っている。
 まず、「被害者」層は学校的価値に対して受容的だが、それは必ずしも学校的価値を肯定しているわけではなく、彼らの態度に起因するものであると思われること。「被害層が位置している空間には管理統制や社会的勢力への受容的、肯定的態度が集まっている」。「しかし、他方では彼らが権威や生徒間の力関係にたいしても服従的な態度を示していることを考えあわせると、そこには「力への弱さ」ともいうべき被害者的性格を読みとることができ、教師や規則による秩序回復は権威や制度化された力によりかかろうとする依存的態度のあらわれと解釈できよう」(153頁)。
 他方、「加害者」層やいじめをけしかけるような「観衆」層は、学校的価値へ盲従することがなく、非行との近接性を示している。「被害者とまったく対照的な意識構造をもっているのが加害者層と観衆層であり、両者が同じ価値的世界に位置していることは興味深い。彼らは規則や教師に依存した秩序化を求めず、意思決定においても生徒主導型を志向している。また、社会的勢力についても、それが個人であれ、社会的に承認された権威であれ、盲従的態度を拒否する姿勢がうかがわれる」(154頁)。「彼らは集団活動や集団課題に非協力的であり、子どもたちの間の連帯性や協調性にたいして否定的態度を形成せいている。そのため、管理された押しきせの規則や権威にたいする拒否的態度は、ひとりよがりな、あるいは自分たちの小さなグループだけがよしとする規範を作り出すことになる」(155頁)。
 ただし、「観衆」層の方が、自分からは手は出さないように、より自己中心的で同調的なところがある。「なお「観衆」層が「加害者」層と価値空間を共有しながらも直接いじめの当事者とならないのは、彼らが「加害者」層よりも自己中心的傾向が強く、また「被害者」層の特性である「力への服従」傾向をもっているからである。こうした特性が彼らに「加害者」への協調的態度をとらせ、自分に被害さえおよばなければ自分の手を汚さずにいじめを楽しむという態度をとらせているものと思われる」(156頁)。
 また、被害者にも加害者にもなったことがある層は、学校的価値に不信感を抱いており、校内暴力を行動化する段階では、加害者層や観衆層に変質していくことが予想される。「この被害・加害者層の価値意識には、教師に依存した規律化を求め、力への恭順が認められる。その点では被害者層と共通した性格をもっているといえよう。ところが、この層は被害者層と異なり、集団課題に消極的であり、私益優先や、集団活動をなんとかして逃れようとする戦略的関与という特性をもっている。このことは彼らが加害者層と同じように利己主義的態度を基盤としているようにも解釈されるが、反面では集団目標や集団活動を前にして自己を留保している態度とも解釈することができる」(157頁)。「これらの意識は学級内の対人関係への不信感の表明であり、それは教師や級友たちの間でかわされる評価構造からの疎外感である」(158頁)。
 「仲裁者」や「傍観者」は「学級集団活動には積極的で協調性に富み、学級内の評価構造にも組み込まれており、不信感や疎外感が見られない」(161頁)。とりわけ、「「仲裁者」は集団課題に積極性をもち、学級集団に強くコミットしている」が(161頁)、中学校段階では減少してしまう。他方、傍観者にあたる「層には大学進学を希望し、成績も比較的よい子が多い」。「彼らの学級集団価値へのコミットメントが「便宜的同調」であるとともに、「仲裁者」と「加害者」の両グループに親和性を示すことがうかがわれる」(162頁)。

いじめ―教室の病い

いじめ―教室の病い