いやー読んでいてとても幸せな気分になれる。読みながら勝小吉『夢酔独言』のことを思い出した。ああいう感じの世界だよね。そして、世界を見る眼差しとしてはマッキンタイアの『美徳なき時代』に近いと言っていいんじゃないだろうか(もっとも、スタイルは随分と違うが)。言ってみれば、我々の生きている世界には失われた世界の道徳言語の断片が散らばっているのだが、その全体像は失われてしまっている。それを江戸末期から明治初期にかけて訪れた異邦人たちの記述から復元してみようという試みだ。そして、こっちにはちょっとばかり心当たりがあったりするものだから、あーそういうことなのかと、その世界になんだかうっとりとしてしまう。きっとわれわれはその断片すらをいま失いかけているってことなんだろうな。まあ、それを懐かしんだり、持ち上げたりしても、何にもならないわけだけど。
しかし「あの美しき雅致ある眺め」は、彼女の記憶から消えようがなかった。そして、その記憶のゆえに彼女の一生は生きるに値するものとなった(474頁)。
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