ベルクのいささか特異な概念が導入されていて前著以上に分かりやすいとはいいがたいのだがやはりこれも面白い。ただ、この議論がどれだけ射程を持っているかは、日本以外を論じたものをみてみないとよくわからないな。ちなみに、「通態」と訳されるtrajet、イメージしにくいのだが「融通」と訳してみたらどうでしょう?
ベルク云々の前に簡単に確認しておけば、「自然」と「社会」ないし「文化」という区別自体は人為的なものであり、「文化」に属すると言ってよいだろう。となると、素朴に自然的条件から文化や社会を因果的に説明することはそれ自体文化的な営みであり、実質的には説明するというよりも、自然と文化や社会の区別を再生産していることになる。とするなら、自然と文化ないし社会の関係を説明するためにはちがったやり方が採用されなければならない。
ベルクによれば「風土(milieu)」とは、「ある社会の、空間と自然に対する関係」とある(151頁)。自然に理論的に対立する「文化とは、人間によって、人間のために世界に意味を与えるものである」(152頁)。自然は意味を持たず、文化というメタファーをとおしてしか自然を知ることはできない。「根本的に、自然がメタファの形であらゆる文化のなかに存在し、文化に影響を与える」(156頁)。「空間」は、「諸事物の相互間における関係によって定義づけられるもの」であり、「抽象的なものでも具体的なものでもかまわない」。「ひとつの社会が活性化させる抽象空間と具体空間の、文化的に適された関係、これがその社会の空間性である」(154頁)。
さて、あいだを少しはしょると「風土は同時に自然的かつ人工的であり、集団的かつ個人的であり、主観的かつ客観的である」(185頁)。だから、風土は風土の次元において考えられなければならない。ベルクはこうした「風土」が秩序化/再秩序化する次元を「通態性(trajectivite)」と呼ぶ。しかし、この概念なかなかイメージしにくい。
で、こうした理論が吟味される「風土の理」以前の章では、いわば日本の風土の構成要素について語られ、以降の章では日本の風土、ないしは「自然」が語られていく。
「問題は、人間の諸々の活動が自然であるか、あるいは文化的であるかを判断することではないのだ。むしろどの程度いっそう自然であるか、あるいは文化的であるかを評価することである」(258頁)。「日本の文化は西欧の文化よりも、言葉によらないコミュニケーションを重視する。その点において、感じ取れる現実に価値を付与するわけである。そして同時に個人的な意識を犠牲にして、風土の構成する母型の場に価値を付与する」(359頁)。「清らかさのなかに住むこと、母型への包含」(290頁)。「童心に帰って」とか言うのもそうか。
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