和辻哲郎日本古代文化論集成

 最後の部分では「祭られる神」(自然神)、「神を祭る神」(英雄神)、造化神という区別と神が自然児であるという話でまだ後の議論は出ていない。むしろ、「神代史」に顕著なのは「服従するもの」と「服従せざるもの」の対立であり、「これは他の語で言えば全体性の権威への服属と否とである。人倫の最も深い原理がここでは神話的に把捉されたのである。そこに上代人のの皇室尊崇の観念も明らかに現れている」(240頁)ことになる。つまり、人倫が神話的に把握されているのであり、そこで神話を規範化しようとする宣長が批判され、現代ではそれが憲法の条文や教育勅語として現れているとする。
 他の論文からも引いておくと、いずれも1917年に書かれたものであるが、血の問題については「古代日本民族が、インド文化に親しみやすい血を持った諸民族の混合だということである」(275頁)と明白に論じられている。また、上代人の特質は気候の温暖に結びつけられる。というわけで、和辻の議論を遡ると日本人の基底に見いだされる皇室尊崇の念とそうした日本人の特質を規定する「風土」というものにつきあたるように思われる。
 それから、戦後のことであるが、和辻は紀元節には伝統的な根拠のないことを確認している。

和辻哲郎日本古代文化論集成

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