『自己論を学ぶ人のために』

  基本的に私は概説書の類が昔からきらいである。まず、有り体にいって概説書は退屈。人物列伝のような概説書は出れば商売上購入しているが、読み通すことはめったになく、必要に応じて部分的に読んでみるぐらいがせいぜいである。
 なぜかといえば、よほど著者の視座や切り口がしっかりしたものでないかぎり、読了してもほとんど内容がアタマに残らない。紹介される内容がかなり単純化したものになってしまいがちなので、しばしば当たり前のことを言っているだけに感じられたり、あらかじめ一定の知識をもっていないと何を言っているのかわからないものになっていたりして、印象が残りにくいのである。あるいは、こんな解釈でいいのと思ってしまうこともある。また、切り口や視座が不明なまま、外在的な批判や評価がなされても、それが妥当なものかどうかも判断できない。でも、そうした本がしばしば初学者向けに書かれている。
 このエリオットというひと、かなりの切れ者なのかもしれないけど、その切れ味はこの本には活かされていないというか、残念ながら、この本もそうした例を免れるものにはなっていないように思う。最後になって(227頁)、簡単すぎるとはいえ、自分が本書でやってきたことを確認している(それに対する評価は置く)。しかし、こういうことは冒頭で確認し、また、改めて各章毎に確認すべき事柄でしょう。読んでいっても見取り図が描けないので、しばしば、なんでこの並びでこんな話につきあわされなければならないのかわからなくなる。まあ、簡単な概説を読めばそれで十分な人にはこれでよいのかもしれないけれど。
 個人的には、概説書に頼るよりは、この本のなかで取り上げられている誰かの議論を、その人についての概説書やできれば当人の本を読んでなれしたしむ努力をした方がよいと思う。何か一つの議論にそれなりに親しんでいれば、それを軸に他の議論を理解したり、評価したりするのも容易になる。よい概説書というのはなかなかないから*1、概説書はむしろちょっと「?」をつけながら、必要に応じて辞書代わりみたいに使う方がよい。
 

自己論を学ぶ人のために

自己論を学ぶ人のために

 

*1:例外としてこれは面白かった。

現代社会学の名著 (中公新書)

現代社会学の名著 (中公新書)

 ちくま新書で同じようなシリーズが出てるけど、あれはどうなんだろう?