ピケティを読むとっかかりにはとてもよい本だと思う。ピケティでアベノミクスは駄目みたいなくだらないことは書いてない。グラフできちんと解説していくのも分かりやすい。ただ、大先生の本に難癖つけるのは怖いけど、いくつか気になることもあった。たとえば、非アングロ・サクソン諸国での所得格差の広がりは、アングロ・サクソン諸国に比べれば大したことはなく、日本における格差の拡大は「高齢化によって説明できる程度だ」*1。というのはそうかもしれないけど、これは、必ずしも、格差をすべて高齢化から説明できることを意味しない。たとえば、カルロス・ゴーンのような経営者の報酬の高額化は累進課税率の低下とあわせて指摘されてよいことではないだろうか?この点は、かつてドーアが問題にしていた。
そして、格差の拡大については日本を非アングロ・サクソン圏に分類して議論をしているにもかかわらず、所得税率や相続税率についてはより格差の大きい米国が日本とよく似た動きをしているということをどう考えればよいだろうか?つまり、日本は所得の再配分についてある種の舵を切っていることにはならないか?これもドーアがやや日本びいきとはいえ問題にしていたことだ*2。
また、欧米による所得税と相続税の累進課税の強化は、二つの大戦という有事によるものだったと述べているが、ピケティは必ずしもそれだけだとは考えていない。たとえば、こんな記述がある。「興味深いことに、新世界の格差が、旧世界ヨーロッパの格差に追いつきつつあるという事実を見て、当時の米国の経済学者たちは大いに懸念した」(362頁)。「1910ー1920年の米国で、とても高率とされた累進所得税とともに、莫大な財産に対して非常に累進制の高い相続税が先駆的に導入された」(363頁)。
もちろん、本書でも最後はどんな社会を選ぶかの問題だと結ばれており、それはまったくその通りだと思う。しかし、上に記したような議論の進め方を所与としてそれを考えることには違和感を覚える。
【図解】ピケティ入門 たった21枚の図で『21世紀の資本』は読める!
- 作者: 高橋洋一,
- 出版社/メーカー: あさ出版
- 発売日: 2015/02/20
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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*1:たとえば
*2:たとえば 働くということ - グローバル化と労働の新しい意味 (中公新書)