お仕事用の本を読了。ホントは去年買った本なのだが必要な時期に届かず今年度回し。これを買ったのは、ジル・ジョーンズ&クレア・ウォーレス『若者はなぜ大人になれないのか』という本があるが、この本の続きにあたるような議論を知りたいと思ったからだ。広田照幸『教育』(岩波書店)で紹介されていた。ちょっと古い本なのだが、私のようにここら辺の知識を教養的に仕入れたい人間にとってはとても参考になった。もちろん、日本でこの話がそのままあてはまるわけではないのだが、日本の状況を考える比較対象としていまでも使えるんじゃないだろうか?誰か訳せばいいのに。簡単に流れを紹介してみよう。
まず、その『若者はなぜ大人になれないのか』だが、タイトルだけ見るとありゃりゃという感じで、またイマドキノ若者は幼稚で云々とかいう話がでてくるのかと思ってしまうのだがそんなことはない。原題は、Youth, Family and Citizenship。邦題のサブタイトル「家族・国家・シティズンシップ」がこれに近い。そこではこんな感じの議論がなされている*1。
大人になるとはただ精神的に成長するというだけのことではない。若者がいくつになったら大人になるかはその社会が決めることであり、大人になる過程で若者は留保されていたさまざまな権利を手にしていくことになる。選挙に行ったり、結婚できるようになったり、それが、シティズンシップを獲得するということだ。他方で、年金や健康保険のような社会保障は仕事とリンクしているために、定職に就けなければ獲得できない。たとえば、定職に就けずパートタイムやバイトでしのいでいるような若者はなかなかこうした社会的なシティズンシップを獲得できないことになる。
ところが、不景気に伴う労働市場の収縮や必要とされる教育水準の上昇は、若者が大人になれない期間を長期化する趨勢を生み出す。こうした事態は、当然、若者の親への依存期間をより長期化することになり、離家も遅れる。だが、一方で、その家族形態は離婚率の増加等で多様化しているし、若者は幼い頃から消費市場にとりこまれている。こうして、成人期への移行プロセスはより複雑なものになっていく。
こうした趨勢はしばしば個人化として次のように説明されることがある。すなわち、この長期化し多様化する移行過程のなかで、若者は、教育にせよ就職にせよ、リスクをはらんだ様々な選択の機会を与えられ、それを個人の好みにあわせて選択していく。だから、従来なら若者の将来を規定していた性別、出身階層、人種といった構造的要因はだんだんと影響力を失っていくと。これにたいして、FurlongとCartmelが主張するのは、こうした現象は主観的には正しいかもしれないが、「客観的」に見れば伝統的な構造的要因は相変わらず同じように働いているというものだ。
FurlongとCartmelによれば、仕事、離家、結婚という相互に結びついた三つの移行過程では、出身階層差や性差がいまでも大きく反映している。だが消費に結びついた娯楽やライフスタイル、さらには健康問題(移行期間の長期化および多様化とそれに伴うリスクの増大に伴ううつ病のような疾患の増加など)や犯罪、政治参加(解放の政治からライフ・ポリティクスへ)といったあたりになると逆に違いがなくなる傾向にある*2。
労働市場の収縮変容に伴い、大工場で組合に参加する代わりに小規模なサーヴィス業で働くようになれば、階級意識を醸成する機会は減少するだろう。また、移行期間が長期化かつ多様化するなかで、若者のアイデンティティは不安定になる一方、ますます消費生活の影響を受けるようになっている。その消費に依存する個人の娯楽やライフスタイルは大きく市場に規定され、個人の選択の問題として現象する。このとりわけ消費を中心とした個人化の流れが、問題を個人の選択の問題であるかのようにみせてしまうため、「客観的」な構造の問題を消去してしまうのだ。彼らは、これを「認識論的誤謬」と呼んでいる。
この主観的評価と「客観的」評価の食い違いは、私自身しばしば感じることだし、流行の下流話にもからんでくるところがあるだろう。たとえば、「議員の子どもが議員の子どもに生まれたというだけでそれだけ容易に議員になれてしまうのは不公平じゃないか」というような話を学生としていると、こんな返事が戻ってくる。「その差は、個人が努力すれば埋められるようなものだから別に問題じゃない」。「へ?だってそうだとしたって余計な努力をしなくちゃいけないんだよ?」。「でも、それはその人が努力すればいいことだから---」。まあ、たしかに、例を変えていろいろ話して自分とのかかわりがみえてくれば「やはりまずいかな」というところに落ち着きもするのだが---。これってどうなの?
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