高橋悠治ミーツ姜泰煥

 金曜日の晩は仕事に準じる用件があって、これまですべての用事を断ってきたのだが、今日はそれをさぼってしまった。というのも、高橋悠治が名古屋にやってくるのだ。高橋悠治が何者かは、ネットで調べれば分かる以上のことは書けないから書かない。ただ、ボクの年頃なら彼のことは坂本龍一経由で知った人が多いのではないだろうか。ボクも、知ったきっかけはサティのレコードだったけれど、その後は坂本龍一経由だ。当時、『長電話』という二人の対談本がでており(実家のどこかにあるはずだが)、アジアの民衆と連帯するみたいな感じで「水牛楽団」というユニットをやっていた。
 で、件の店に行ったら、入口のところで高橋悠治が友人とおぼしき人と話をしている。もちろん、声をかける勇気などなく「スイマセン」と言ってわきを通り過ぎる。で、会場でお酒を飲んでいたら、途中からとなりに座ったおっさんが高橋悠治ではないか。で、さっきの人と話をしている。それをちらちら見ながら酒を飲んでいたことはいうまでもない。でも、まわりの人は気にしていなかったみたい(休憩後は態度が変わったようだけど)。見た目のゆるい感じと彼がたたき出す音のテンションの高さは随分と違う。
 そんなわけだから、共演者である姜泰煥さんがステージに現れたのにも気づかなかった。この人あぐらをかいてサックスを吹く。感じとしては、エヴァン・パーカーに近いと言えば分かる人にはわかるだろう。それから、高橋悠治のソロ。姜泰煥の息のながいときとしてサックスとは思えなくなる音と高橋悠治の鋭く切り込んでくるような音はかなり対照的だ。休憩をはさんではその二人の共演。その演奏については語りようがない、というか、そもそも、他に形容しがたいような音が聞きたくて行ったわけで、とにかく、その音に捉えられると、ひたすら二人の音だけが時空を占拠し、ほかの何も存在していないような感覚にひたされる。またこんな経験をしてみたい。