BECK

 最初から総立ちがしんどいから流行りものを聞きに行くのはつい遠慮してしまうのだが、1Fスタンディング、2F座席だったので、2Fならおじさんでも大丈夫かなということで、はじめてのベック。常連組には今更だろうが、いったいあの音楽がどう再現されるかも気になるところ。しかし、2Fはノリがイマイチだったぞ。

 ベックというとどこかキメラ的、あるいはフランケンシュタインのようなイメージがある。もちろん、顔のことではない音楽のことである。ロック、ブルース、カントリー、ヒップホップ様々な音楽の残骸が野放図に組み合わされたような感じが、あの決してハイ・テンションにはならない無気力なグルーヴと相まって、奇妙な解放感を与えてくれる。ああ、ロックが解体されていく。
 それは、彼のアルバムのジャケットデザインからもうかがわれるんじゃないだろうか。『メロウ・ゴールド』や『オディレイ』なんかのジャケット、あれは、その辺に転がってるゴミ屑を組み合わせたチープな怪物とでもいうのかな。今回の来日にあわせて、アート・ショーも開催されるとのことだが、その写真もあわせて見ていたら、その南部的なイメージが、オキーフあたりを連想させなくもない。あるいは、イーグルスのジャケットと見比べて見てみるのも一興か。あのジャケットの21c版があるとすれば、こんな感じになるのではないか。アート・ショーって、どんなものが見られるのだろう?

http://www.smash-jpn.com/band/2007/04_beck/artwork2/index.html

 そんなチープでつぎはぎなイメージが、このライブではパペット・ショーというかたちで、エンターテインメントに組み込まれている。バンドセットの背後に、パペット(操り人形)の舞台が設置され、その映像が背後に大写しになる。そのおちょくった感じが楽しい。
 そのパペット・ショーから始まる一曲目は「ルーザー」。バンドの編成は楽曲ごとに変わるが、ツイン・ドラム、それと、分厚いベースの音から作り出されるけだるいグルーヴは、CD以上にロックの解体感をあじ合わせてくれ、それが心地よい。途中にテクノ系を排したシンプルなバンドセットがあり(ストーンズだったら、舞台が前にせり出してからやるときの感じか)、よりストレートな感じのその演奏もまたよかった。このセットの最後の曲のベース・ラインは、シックとスティーヴィーでのせる。で、最後は、これからディナー・ショーを始めると言い出して、バンドの・メンバーがテーブルについたよこでベックがアコギ一本でブルースを歌い、これもまたいいのだが、曲が進むうちに、メンバーたちがならす食器の音が、しだいに明白に音楽を構成する要素になっていく。このアコギと食器を組み合わせた音が、これまた少しちぐはぐでどっかブッ壊れている。で、パペットを使ったおどけた映像を挟んでアンコール。ポップでありながら、どこまでも壊れていく感じが気持ちよかった。