松本隆

 某国営放送局で、松本隆をとりあげた番組をやっていたのでいくらテレビ嫌いでもこれぐらいはという感じで見てしまった(ついでに昔の特番も再放送する気はありませんかね?)。当然、おそらくはアイドル歌謡の最高到達点であろう、松田聖子が中心になるのだろうと思っていたけれど、で、また実際そうだったけど(でも、もっと言葉を引き出して欲しかった)、見ていて面白かったのは、薬師丸ひろ子のインタビューと、松本隆ユーミンの対談だった。
 まず、薬師丸ひろ子が自分がもらった歌の歌詞から紡ぎ出すイメージの豊かさに驚いた。女優だからと言えばそれまでかもしれませんが。そして、その豊穣な言葉から、松本隆が、詩を提供するにあたって、彼女は人の心の裏が読める人だからって語っていたことがまさに当たっていることが露わになって、松本隆の凄さをあらためて実感した。
 実際、薬師丸ひろ子の歌って、けっこう好きなんだけど、松田聖子がわりと身近なところで歌っているのと比べると、あの透明感のある声もあって、歌われている事柄を越えたところになにか世界のようなものが広がっていく感じがする*1。二十歳にいくかいかないかの彼女が、すでに十分に成熟した女性の歌を歌えたということなんでしょうね。一方、マッチは純粋な少年のイメージと語っていたけど、何にも考えずに歌っていてよかったんだろうな。
 他方、ユーミンとの対談では、ユーミン呉田軽穂というペンネームを使ったことについて、自分が欲しかったのはユーミンの才能だと言い切ったあたりもあれだったけど、それ以上に、松本隆ユーミンそれぞれが今現在立っている境地というか、苦しんでいる場所の違いが浮き彫りになっていたように思う。まあ、作曲の方が続けていくのが苦しいんじゃないかとも思いますが。
 で、ついこんなのを聞いてる。少女編の方が好きです。少年編はなくても、大滝詠一とか鈴木茂とか、個別に好きなものが手元にそろっていて、気が向いたら引っ張り出して聞いているせいもありますが。

松本隆WORKSコンピレーション「風街少女」

松本隆WORKSコンピレーション「風街少女」

松本隆WORKSコンピレーション「風街少年」

松本隆WORKSコンピレーション「風街少年」

*1:追記 とりあえず例の二枚組に入っている「探偵物語」と「WOMAN」の二曲をあらためて聴いてみたら、この歌の主人公は一体どこから世界を眺めているんだろうと思わずにいられない。あきらかに、自分を見ているもう一人の自分がいる。そして、このもう一人の自分をとりまく情景がメタフォリカルに歌われている。それに「WOMAN」って曲の構成が変わっていて、最初どうなってるんだろうと思ったけれど、大雑把にはAA'BAA'BA''という構造になっていて、AA'Bと歌ったあとで、Aが間奏になってA'BA''と歌が入るようになっている。前者も単純なAABA式にはなっていない。いずれも、それが歌の世界に効いているように思う。ちなみに、作曲は前者が大滝詠一、後者が呉田軽穂