この辺の知識を仕入れる本としては、議論も整理されていて分かりやすいし、面白い本だった。ただ、「強い自己」と「弱い自己」という対比が責任帰属の問題に重ねられているのはなんか違う感じがする。そもそも「自己」というものが弱いものだという考えにたどりつくのであれば、他人の弱さも認め、受け入れることができなきゃおかしいよね。
そういうことを鑑みると、この本では、「自己」ということで何を考えているのかがちょっと曖昧。最後の一文では「自己像」という言い方もなされているし、話の基本線は、自己をどう描写するかということになると思う。でも、ネットワーク・ビジネスで描写される自己像って、閉じたネットワーク・ビジネスのなかでだけで通用する話でしょう。そうすると、その「自己」はむしろ弱いとも言えそうだ。自己描写を与えてくれる準拠集団とその外側の関係の違いをもっとはっきりさせて考えた方がよいような。
ネットワークビジネスや自己啓発セミナーは、表面的には「強い自己」になろうとする運動だが、1990年代以降のアダルト・チルドレンなどの自助グループは「弱い自己」を強調した。弱さを自覚するセラピーの台頭は、近代的な「強い自己」の相対化でもあった(199頁)。
セラピー文化の社会学―ネットワークビジネス・自己啓発・トラウマ
- 作者: 小池靖
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 2007/08/29
- メディア: 単行本
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