ブルックス・ブラウン ロブ・メリット 『コロンバイン・ハイスクール・ダイアリー』 太田出版 2004
というわけで、この本を本棚から見つけ出してきた。1999年の昨日に起こったコロンバイン・ハイスクールでの銃乱射事件以前と以後に起こったことを記した本だ。著者であるブルックス・ブラウンは、銃撃犯エリックとディランの友人であり、ディランとは幼なじみ、エリックからは1年前にちょっとした諍いをきっかけにホーム・ページで殺すと脅されていた。事件の日は、学校へやってきたエリックと遭遇して「オマエのことは嫌いじゃない。ここから離れろ」と言われて惨劇を逃れている。事件後は、警察のずさんな捜査の言い逃れののために、共犯者扱いされる*1。
読んでいて、子どもがタフな世界を生きなければならなくなるのは、日本もアメリカも変わらないのだと思わずにはいられない。そこはどこまでも不条理が支配する世界だ。
「ぼくらがコロンバインで見ていたことは、筋が通っていなかった。---。高校に入ると、仲のいいグループというのはすべて、最初の数週間で決まるように思える。一度彼らが結束すると、残酷な行為が始まる」(59-60頁)。
「大抵ぼくらは、やり返したりしなかった。早いうちにぼくらが学んだことの一つは、いじめるやつらは、やったことに抵抗されると、もっとそれをやるってこと。いじめをするやつらは、権力を欲しがっている。やつらは自分たちの自尊心を高めたくて、自分たちを恐れさせることで何かを勝ち取ったと思いこむ。それが、いじめるやつらが毎日決まって折り合いをつけないといけないメンタリティだ。ぼくは、やつらを止められるものは何もないとわかっていた。でも、少なくとも無視することで、やつらがそこから何も得られないようにしていた」(61頁)。
しかも、この不条理な世界を埋め合わせるのが、もう一つの不条理の世界だというのだから嫌になる。事件前も事件後も、学校も警察も、自分たちの保身に走って、実際に起こったことは見ようとしない。代わりに、執着するのは、ゲームだ、ヘヴィメタだ、共犯者だと、事件の空白を埋め合わせてくれる生け贄さがしだ*2。たとえば、そうして召還されたのがマリリン・マンソンだった。
だが、ブラウンはこういう。
「音楽も同じことだ。それは原因ではなく症状なんだ。暴力的な音楽は単にある日現れて、世界に暴力を解き放ったんじゃない。社会でそういう種類の音楽を魅力的にさせる何かが起きているから、社会が暴力的な音楽を作り出した」(25頁)。
それだけじゃない。『ボウリング・フォー・コロンバイン』であの事件にいちばん冷静な分析を加えていたマリリン・マンソンは、音楽が自分にとっての唯一の救いだったと語っていた。思い返してみれば、自分の中学時代も似たようなものだった。そして、この本を読めば、同じように、彼らにとってゲームがどれほどの救いになっていたか分かるはずだ。
「エリックとディランがテレビゲームの世界に入りこんでみると、その世界には明確なルールがあった。だから、あいつらはすごく気に入った。そのルールは事前に決められていて、破ることはできなかった。ぼくらがいたような世界に住む多くのキッズにとって、それは天の恵みだった。現実の世界では、ルールはいつも変わり、いきなりトラブルに巻き込まれることだってある。でも、テレビゲームは違う」(47頁)。
けれど、エリックとディランはどこかで一線を越える。それはやはり不条理で不条理を埋めようとする、しかもファロセントリックな「解決策」だった。
「でも、エリックとディランは、あいつらの行動を説明する必要なんて感じてなかった。あいつらは世界に対して怒っていた。そして、その怒りは表面に現れ始めていた」(85頁)。
不条理な空間を生きるなかでふくれあがっていく不条理な妄想。いまを生きるわれわれは、多かれ少なかれそれを抱え込んでしまっているはずだ。この手の事件が起こるとすぐに「アメリカ銃社会の」と来る。たしかに、合州国での銃規制は必要なのだろう。だが、『ボウリング・フォー・コロンバイン』が示していたように、問題は銃の野放しそのものよりも、銃が不条理な妄想の供給先として機能してしまうところにある。全米ライフル協会の会長であるチャールストン・ヘストンが、マイケル・ムーアを前に、「銃があれば安心するんだ」とつぶやくみじめな姿を思い出してみればいい。してみれば、これは銃にからむだけの話ではない。そんなわけで、読みながら、ボクはこの本にこの本を結びつけていた。たとえば、こんな記述に*3。
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*1:彼のブログはここにある。http://www.1up.com/do/my1Up?publicUserId=5629740
*2:あれ、いじめ問題が「教育改革」、教育基本法「改正」の問題にすりかえられていくのとよく似ているではないか。
*3:もっとも、集団ってところはどうなのかなという気もするのだが、そしたらこんなデータがあることを知る。http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070420/1177093181。おそらく、われわれには一人で生きていけるような環境が必要なのだ。