NARA:奈良美智との旅の記録

 しかし、夜一回のみの上映だというのに大した入り。この時間のこの映画館でこんなにたくさんの人を見たのは初めてだ。で、その映画だが---
 正直のところ、ホーム・ムービーみたいなノリに退屈した。もっと作家を挑撥し、切り込んでいくようなところがみたかった(絶対出てこないけど、これって商売としてもスゴいんじゃない?)。まあ、何を期待してるんだと言われてしまえばそれまでだろうが。たしかに、制作風景はのぞけたし(あんなところで寝るんですね)、作品からもうかがわれるようにやはり奈良ってベタな感じの人なのネというのも伝わったし。韓国にはあんなに熱狂的なファンがいるんだとか(ちょっとあの目つきはこわい)、ナレーションも宮崎あおいちゃんだったし、とか。
 でも、ベタからちょっと外れてるのかなと思うところもなかったわけじゃない。あのわきあいあいとしたA to Zへの道行きで、どうも奈良自身が癒されてしまったらしい。みんなで山にも登ったし(頂上をきわめたってこと?)。彼ほどの作り手なら、当然、そこから思わぬ成功を手に入れたことに対する違和感、ひいてはそれに馴染んでいく自分自身への違和感が生まれてくるだろう。最初の方で、自分が感じているポテンシャルとしてはともかく、現在、世間的にはこれ以上ないような評価を得ているという旨を友人に語っていた。また、この映画のラストでは、それまで孤独に描いてきたという奈良が、共同作業をするなかで自分の作品が変わったと語る。その前にも、何かのイベントで、A to Zで奈良美智が終わるみたいなことも言っていた。だけど、この映画のなかでは、なんだかそれもちょっとしたエピソードにすぎないように見えてしまうところがあるのだ。
 じゃあこの先、癒されてしまった奈良はどうするんだろう?それは今後の作品にどう結びつくのか?と、考えてみれば、A to Zみたいなことをやってしまうと、次は難しいところに来ているんじゃないだろうか?『ボーン・イン・ザ・USA』を出したスプリングスティーンみたいな感じか。とりあえず、ボクは楽しみに待ってみようと思う。まさか、それがこの映画ってことはないよね。
 ところで、変わったってどう変わったんだろう?たしかに、A to Zのポスターに使われていたあの絵を見たとき、ちょっと感じが変わったかなと思わないでもなかったのだが、熱心な奈良ファンではない私にはよく分かりませんでした*1


A to Z

A to Z

*1:以前、某掲示板によせたAtoZへ行ったときの雑感を再掲したので、関心のある方はどうぞ。http://d.hatena.ne.jp/Talpidae/20061006