風の波紋

 東日本大震災とときをあわせて新潟から長野にかけて地震が起きたのだが、あまり、話題にならなかった。この映画の舞台とはいささかずれているがお隣ではある十日町にわたしはちょっとばかり縁があり、原発のこととあわせて、ほとんど流れて来ないこっちはどうなってるのだろうと気になっていた。私が泊まった宿もあるし、めぐった地域もある。それからしばらくしてこの地域の被害状況を伝える写真を見る機会があってこんなにひどかったのかと知った。震災の前も震災のあともまた訪れたいと思いつつもなかなかかなえられないなか、小林茂監督が十日町を舞台にドキュメンタリーを撮っていることを知った。どんなドキュメンタリーを撮っているのだろうと思っていた。その間に、やっと私も十日町を訪れる機会を得た。以前来たときは、棚田の絶景が見えるポイントだったところに行ったら、棚田の一部が崩れていた。集落をめぐるなかいくつかそんな光景を目にした。
 さて、このドキュメンタリーは印象的な冒頭を経て、震災後の春に木暮さんの家の建て直しからはじまり、あんな風に茅をふくのですね木暮さんを中心に部落の一年の生活が描かれる。それだけと言えば、それだけの映画である。地つきあるし、移り住んだ人もいるし、土地を離れてしまった人もいる。しかし、描かれる光景は美しく、また、そこで起こる出来事は楽しげである。もちろん、それだけではないのだろうけれど、ここで生きていくことの肯定性がみなぎる映像はわたしをこの世界に誘い、きっと自分では生き抜くことができないであろう世界にあこがれをいだかせる。とてもよいものを見た。