21世紀の資本

第5章

前章では、18世紀以降のヨーロッパと北米の変化を見た。長い目で見ると、富の性質は一変している。資本のうち、農地はだんだん工業・金融資本と都市部の不動産に変わっていった。だがまちがいなく最も驚く事実は、こうした変化にもかかわらず、資本ストックの総価値が、超長期にわたりあまり変わっていない点だ。--。
 際だって目につく第二の事実は、ヨーロッパと米国の違いだ。当然のことながら、1914-1945年のショックによる影響は、ヨーロッパのほうがずっと強く、このため資本/所得比率は1920年代から1980年代までヨーロッパの方が低くなった、でも戦争とその余波があったこの長期間を除くと、資本/所得比率は常にヨーロッパの方が高い傾向にあった。これは19世紀、20世紀前半、そして20世紀後半、21世紀前半にも当てはまる(172頁)。

 なぜ、資本/所得比率が回復したのか。資本/所得比率β=貯蓄率s/成長率gで示される。これが含意するのは、ほとんど停滞した社会では過去に蓄積した富がきわめて大きな意味を持つということ。

長期的に最も重要な要素は、経済成長の鈍化、特に人口増加の低迷で、これが貯蓄率の高さと相まって、β=s/gの法則により自動的に長期的な資本/所得比率の増加をもたらす。超長期的にはこのメカニズムが支配的な力だが、だからといってこの数十年間に影響力を大幅に強めた残り二つの要素を見過ごしてはならない。ひとつが1970年代、1980年代にだんだん民営化と公共財産の民間移転が進んだこと。もうひとつが、不動産と株式市場の価格に影響した長期的なキャッチアップ現象だ。戦後すぐの数十年間に比べて民間財産にとっては総じて有利な政治的背景の中、このキャッチアップは1980年代、1990年代に加速している(181頁)。


21世紀の資本

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ピケティ入門 (『21世紀の資本』の読み方)

ピケティ入門 (『21世紀の資本』の読み方)