複数の「古代」

古事記』『日本書紀』ひいては『万葉集』に異なる「古代」記述を読み取ろうとするもの。『古事記』からよみとられるのは、そう死者を祭るように臣下は天皇に政と「きこしめし」、天皇は支配地域に向けて「こと向け」する。いわば「呼びかけ」それに応答する領域に組み込むということであろう。つまり、臣下の態度と新しい支配地域に求められることはいずれも同じ、天皇に「聞こしめす」領域に組み込むということであるのだな。ただ、この件に関する丸山批判は分かったようでわからない。
 さらに、『日本書紀』は干支による紀年を採用しているが、『古事記』は紀年を採用しておらず例外的に「御年」がそれに見いだされる。しかも、『万葉集』をも加えて、これらの紀年は必ずしも一致しない。つまり、複数の「古代」ということになるわけだし、聖徳太子の諡としてはともかく、そのような現在進行形の人物は確認されない。あまりに面白すぎる事態ではあるまいか。
 

複数の「古代」 (講談社現代新書)

複数の「古代」 (講談社現代新書)