ふるさと考

 松永伍一って完全に忘れられた存在って感じだな(と、思ったら『老いの品格』なんて本が出てた)。しかし、法政から著作集なんて出てたんだな。この本の評価もいまとなっては微妙かな。エッセイ調だし。
 ふるさとは1.王権支持につながる表象、2.肉親への恋慕を視点とする象徴、3.国家意識の明確なあらわれに伴う幻点の三つが平安初期までに出来上がってしまい現在までに至っていると。でも、その後に出てくる貴種流離譚じゃがたら文、祭り、この辺は原郷と幻郷の区別から説明されている。
 明治以降は「事実としての故郷」が発見され、虚栄『故郷に錦を飾る」と感傷が農村共同体の破壊しつつ、新しい秩序の倫理として普遍化する。情念を抜去られた故郷を歌う唱歌と実態を歌う唱歌と農民詩や民謡から新民謡へと凡庸化していく流れ(白秋にはふれないのだな)。こうした対比をなぞるように近代意識を軸として藤村と啄木の対比、啄木の延長に萩原朔太郎にはじまる望郷から故郷憎悪へとする故郷への憎悪。他方での柳田の〈故郷発見〉と国家主義から三島に到る故郷の非実体化。戦後、それに連なる谷川雁黒田喜夫。中野本とつきあわせたらどうなるだろう?