ストーカー考

 ストーカーの勉強をしてみようと言いつつ全然していないので、考えられうる一つのモデルを、ここでは、パラノイアは詳しくないので、境界例水準にある人物を想定して考えてみよう*1境界例水準にある人物にとって、最大の問題は自分が執着する人物から見捨てられることである。いわゆる、「見捨てられ抑うつ」というヤツですな。そうすると、相手と安定した関係を築けなくなるかもしれないという場合、境界例水準にある人物にとってもっとも合理的な選択は何か?いうまでもなく、最悪の選択は相手に「見捨てられる」ということである。では、関係が不安定になって相手に見捨てられるかもしれないという選択肢が視野に入ってきたとき、どのような戦略をとることで最悪の事態を回避することができるだろうか?
 答えは簡単、自分が見捨てられたのではなく、自分が相手を見捨てた、自らが選び取った事態であるかのように偽装していくことだ。そのためには、まず相手を悪人に仕立て上げればいいというより、境界例水準の人は問題を相手の責任に転嫁するのがうまい(いわゆる投影性同一視というやつです)。とはいえ、当の人物は、現実には、相手から見捨てられる事態が耐え難く、その点で執着をおぼえている。他方、相手はもううんざりしていて別れても苦しくないかもしれない。じゃあ、代わりに苦しめてやればいい。相手を悪者にしたうえで、それを懲らしめて当たり前とばかりに嫌がらせをしていけばいい。あるいはそのような態度をとることによって相手が自分を見捨てるように仕向けていけばいい。つまり、自分自身が相手に自分を見捨てるように仕向けていけばいいのであり、しかも、相手はそれに見合った苦しみを覚えていたり、さらにはひどい人物なのだということにすればよい。暴力を振るったとかDVだとか騒ぎ立てるのも一つの手だし、実際にも、相手に暴力をふるわせるように嫌がらせをしてストレスをかけるというのもありだ。そうすれば、別れるのは当然のことであって、見捨てられることにはならない。
 というわけで、そんなに嫌なヤツだったらさっさと別れればいいものを、陰に陽に攻撃的な態度をとって相手を責め立てる。それで、相手のネガティブな面を引き出せば、やはりコイツはその程度のやつだったということになる(繰り返すが、典型的な投影性同一視である)。実際、自分の気に入らないことに対してすぐ切れる人物から、自分はそんな風に攻撃的な態度をとっていないと落ち込みそうになるという話を聞いたことがある。つまり、攻撃的な態度をとることで自己防衛をはかっていたのである(迷惑な話だ)*2
 という次第で、相手に対する自らの攻撃的な態度を相手に投影して、相手のせいで自らが攻撃的な態度をとるということにして、相手から攻撃的な態度を引き出せればそれをネタにさらに相手の非を責め立て攻撃的な態度を加えていけることになる。とはいえ、相手は自分を見捨てるかもしれない自分に恐怖を与える対象である。だから、攻撃しながらも、完全に離れられてしまっては困る。だから、徹底的にいためつけて自分の言いなりにさせてしまうところまで持って行ければこのうえない。現に、DVの被害者は暴力を受けながら、相手のもとへともどっていくことがしばしば知られている。被害者は不条理な嫌がらせや暴力を受け続ければ、なぜ自分がそのような仕打ちを受けなければならないのか理解できない、一方、相手にたいする恐怖から、本当に自分が悪いのではないかと思い始めてしまうことにもなりかねない。なにしろ、自分が悪いと責め立ててくるのだから、それを受け入れればさしあたりの問題は解消してしまうのだ。
 あるいは、相手の悪口を言い立てて、自分の味方を選り分けては包囲網を作っていくのも手だ。そうすれば、自分の理解者が周囲についてくることになるから、相手の存在意義を自分のなかでも貶めていくことができる。そうすれば、自分の相手にたいする怒り等は受容されやすくなる一方、相手の言動は非難されやすくなる。また、こうした状況下で関係が壊れても、この遊軍達はきっと自分に同情してくれるであろう。
 しかし、いずれにせよ、これは人間が人間の生きる世界から切り離され解体していく事態だと言ってよいだろう。もっとも、その前に攻撃する方がこわれかけていると思うが(そして、このこと自体も問題なのだが)、そうするとそのとき必要なのは、その外側の世界があるという相対的な視点を獲得することだと思う。自分の生きる世界が一つしかないと、そこに隷従する以上の考え方を持つことが難しい。この本とか役に立つかな。しかし、隷従させてる方はどうすればいいんだろう。
 

Breaking the Cycles of Hatred: Memory, Law, and Repair

Breaking the Cycles of Hatred: Memory, Law, and Repair

 
http://www.asahi.com/national/intro/TKY201211131026.html?ref=nmail_mo