たしかに面白いし読み応えがある。テイラーが展開する批判はわたしにはとても分かりやすく、納得できるものだし、どこから始めるかについても異論はないのだが、そこから話がここまで行ってしまうと---。
私たちは善との関係で自分の立ち位置を決定しなくてはならず、それゆえに善に向けての位置づけなしですますことはできない、それゆえにまた、私たちは自分の人生を物語のうちに理解しなければならない、と(61頁)。
明確化される前の段階では、質的区別は、重要なもの、価値あるもの、(忠誠を)集めるものについての方向づけの感覚として機能する。この感覚は、さまざまな機会に私たちがいかにして行為し、いかに感じ、いかに反応すべきかについての私たちの個々の直観のうちに出現する。また倫理の問題に関して熟慮するとき、私たちが依拠するのはこの感覚である。このような質的区別を明確化することは、私たちの直観が私たちに要求したり、促したり、称賛すべきものとして提示したりする行為や感情がもつ道徳的意義を述べることである。質的区別がこの地位をもつのは、比較的内ほど大きな重要性や緊急性という地位を要求する高次の善の特別な領域においてのみならず、生活の全領域で私たちが追求する諸々の善より広い領域においてもである(92頁)。
われわれを位置づける枠組みとして明確化可能な善の質的区別と、そこから引き出される自我のアイデンティティの物語。さて、これどうしたものか。
- 作者: チャールズ・テイラー,下川潔,桜井徹,田中智彦
- 出版社/メーカー: 名古屋大学出版会
- 発売日: 2010/08/31
- メディア: 単行本
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