前作『レスラー』の評判がよかったのに見に行けなかったアロノフスキーの新作、ご近所でも評判だし、評価も高いようなので見に行ってみた。ナタリー・ポートマンで「白鳥の湖」はちょっと線が細いのではとも思ったが、迫力の演技ではあった。面白いと思ったのは、ハリウッド映画にありがちなエディプス・コンプレックスが退けられて、母娘関係と女性のホモ・ソーシャリティが話の枠組みを作っていると思われるところ。
娘ニナをコントロールする母親は、ある意味、娘を自分の競争相手と見なしており、なにかにつけては成功できなかった自分のキャリアと娘の養育を天秤にかけて娘をしばりつけ(恩着せがましい嘘)、娘の成功を祝福する一方で娘が自分を超えて成功することを拒絶している。この一種のダブル・バインド状況のなかにおかれた娘には自傷癖のようなものがある。
他方で、自分と役を競い合う分身的な女性リリーが現れて、成功を求めてもう一つの鏡像的な関係に入ることになる。それは母との距離を作るきっかけになる一方で、主役に抜擢されたプレッシャーもあって、新しいファンタズムを産み落とすことになる。そして、このファンタズムのなかにリリーとの性と死が含まれてくるのは当然のことであろう。
彼女はこの二つの鏡像的関係から抜け出すことができるのか?しかし、鏡を割ることは同時に自分自身の死をも意味することになるだろう(そして、演じられるストーリーをなぞることになる)。しかも、最後に、リリーが楽屋にやってきて、母親が会場にあらわれるのは、ドッペルゲンガーとも受け取れる。そのうえ、この映画には、彼女の父親は出て来ないし、ニナは彼女を抜擢したコリオグラファーと寝ることもないのである。
ところで、幻想と現実の境目を曖昧にしたようなハリウッド作品って最近多いような。それから、母親が描いて部屋に貼り付けているあの絵は何を描いているのだろう?自画像?あれも鏡像的な意味合いをもつんじゃないかと思うんだけど。
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