『脳科学とどうつきあうか』

 ときどき顔を出していた南山大学の社倫研から刊行物を送っていただけるようになった。ありがとうございます。この冊子のもとになったイベントは行きたかったけど、スケジュール上行けなかったものなので、こうやって読めるのはとてもありがたい*1。これ、学生に読ませたいな*2
 余談になるが、面白かったのは「抑うつの現実主義」。「軽度のうつ傾向の人というのは悪いほうに歪めるのではなく、正確にものごとをとらえようとするのだということが明らかにされてきました」(102頁)。ただ、これ、軽うつの人に顕著な性向なのか、それとも、すでにうつになりやすい人にも確認できるパーソナリティなのか気になる。一方、たくさんのうつ病者を生みだしているであろう(同じ)組織にずっと所属し続けるとものの見方がゆがんで来やすくなると思うのだが、こちらはどれほど妥当性があるだろう?
 脳科学にかぎらず、いま原発地震がそうなわけですが、あるいは自然科学にかぎらず、われわれの大半は専門的な知識を持たずに、いろんな専門領域にかかわることがらと接していかなければならないわけで、そうすると、そのすべてを各人が責任を持って判断することなんてできない。だから、地震原発なら、まずは「専門家」や「知識人」の果たすべき役割があって*3、そして適切な情報提供と情報解釈を行う科学ジャーナリズムの重要性があって、そして、実際には、様々な情報が垂れ流されているわけだから(不安感を煽るいい加減な記事を載せてる週刊誌はいくらもありますな)、それをある程度吟味できるような推論能力みたいなものを各自が身につける必要がそれぞれあるわけだが、事態はなかながそういう方向には行っていないというのを、改めて実感せざるをえない。
 ところで、この本には社会学者は出て来ない。話をデマというかたちににしぼらないで、科学社会学者の出番があってよいと思うのだが。
 

*1:簡単にはここで、http://www.ic.nanzan-u.ac.jp/~takayuki/101211symposium.html

*2:それから、こことかのぞくと勉強になると思います。http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/~kikuchi/weblog/

*3:その一端がここに残っているわけですが。http://cnic.jp/