「ザ・コーヴ」

 一応ということで、「ザ・コーヴ」を見てきた。内容の偏向についていろいろ言われているようだが、そのこと自体はあまり気にならなかった。一定の立場から撮れば、それにあわせて駆使する奇妙なロジックも同時にあぶりだされてしまうわけで、反捕鯨派はやっぱりということになるだろうけど、ロジックのおかしさに気づく人も出てくれば、かえってナショナリスティックな感情を刺激されてしまう人もいるだろう。
 ボクが気になったのは、この映画の構成だ。メンバー選びから始まるテレビにありがちな突撃・マル秘潜入仕立てのストーリー展開は、ほとんどお笑い番組にしか思えない。この人たち真面目にやってるんだろうか?それから、イルカを殺しているとおぼしき岸辺をつきとめ(実際、そこはイルカの血で海が真っ赤になる)、彼ら言うところの問題の解決になるからとその現場の映像を撮ることにこだわるのだが、なぜ話がそこに収斂していくのかがちっともわからないというか、もしかしたら、それがこのドキュメンタリーの特徴を一番よく表しているのかもしれない。
 それから、マイケル・ムーアにもそういうところがあるけれど、この映画の場合はもっと露骨で、取材対象から話を聴き取ろうという姿勢がまったくといっていいほど感じられない。しばしば発言者のカットは切り刻まれ、一部の公人をのぞけば、太地の漁民をはじめ主要な取材対象となるはずの人々の映像にはぼかしまで入っている。これはいったい何なのだろう。イルカとの関係はともかく、ここでは取材される人たちと濃密な関係を作る必要はないみたい。取材対象がただの道具立てでしかないのなら、これ、運動としてはともかく、ドキュメンタリー映画としてはどうなんでしょういうところなのですが。併映された「鯨捕りの海」の方が面白かったし、正直、こっちの方を見たかったのだ。鯨ってあんな風にさばくんだ。