『世直し』

 農民層の分解過程で、百姓的世界の意識化が起こる。

18世紀半ば、百姓的世界の意識化が成立する」。「現実の農民生活が大きく変動し始めたからである」。「農民生活の変動は、この商品経済・商品生産の展開によるものであった」。「そして、この商品経済の発展は、農民層分解をはげしくおこすことになるのであり、その農民層分解は農民たちの間に新しい矛盾・対立関係を生み出す過程なのだから、農民生活は大きく変動し始める。さらに、その農民生活の変動は、旧来の百姓的世界の基礎の解体の第一歩なのである。だから、百姓的世界意識の意識化は、百姓的世界の解体の起点で行われたということができよう(11頁)。

 こうした、商人・高利貸・地主と化した豪農と半プロレタリアート化した農民の二極分化に並行して、村方騒動・打ちこわしが、「世直し」意識を帯びていくようになる。

地主小作関係からの問題を主題とするような内容をもつに至ったのは、豪農・地主の小作関係の再編成を通じて、半プロが層として、村のなかに形成したことと不可分の関係にあった(37頁)。

 しかし、「世直し意識」が映し出したのは、小生産者世界という幻想性の強いものであった。

世直し意識は、世直し大明神を登場させて、騒動主体の編成・騒動行為の正当性・要求実現の強制力、の三つの論理を、騒動勢に与えたのであった。そして、この騒動の目ざすところは、結局のところ、「不正」「不当」な搾取・収奪を排除した小生産社会であったのである。それは農村でいえば、村共同体に媒介された自立的小農民が安定的に再生産できる社会ということであった(138頁)。

 明治維新になると騒動の性格が様変わりし反権力闘争化していく一方で、兵農分離制の廃止により百姓的世界意識や世直し意識が強行的に解体される。

豪農商が藩や県によって編成されることから生まれる新しい問題の第二は、豪農と半プロ層との間の矛盾・対立が、民衆と、県・藩そして国家との間の問題に転化していくことである(182頁)。

世直し (岩波新書 黄版 90)

世直し (岩波新書 黄版 90)