川田順造『口頭伝承論』
やっと読破。『プラトン序説』で指摘されている「声の文化」における詩人の社会的地位の高さは、以下の指摘からも確認できるように思う。
まず語り手についてみますと、ジェリの起源をしめす伝承の中には、先ほどマンデ王族の起源伝承にも出てきましたが、将来王になる者と語り部は元来兄弟であって、弟の方が王になり、兄が語り部になる。このような伝承が多いのです(271頁)。
つまり語り部というのは西アフリカではかなり出自のうえで位が高いわけで、先祖は王族で王の兄だった(272頁)。
また、オングやハヴロックが指摘する口頭伝承の可変性、ないしは語りの自由度については、やや単純に考えられすぎているみたいで、むしろ語りのなかにも文字に近い層と遠い層があると考えた方がよいようだ。
まず、受け手の位置づけに関連して。語りの自由度が低いモシ族の王の系譜語りにおいては、「語り手も聴き手も、語られる内容に対して、何らかの意味で”当事者”」(237頁)であるのにたいして、「口頭構成法が用いられるような語りでは、語り手は多くは遊行の職能者であり、聞き手も不特定多数か、特定されていたとしてもかなり多様で広範囲にわたる”顧客”であり、語り手はむしろ、聞き手の嗜好や口演の状況にあわせて語ってゆく」(237頁)。
また、叙事詩のフォーマットについても
このように叙事詩の語られ方において、言葉の詩型としての定型性、楽器の関与の仕方、実年代や固有名詞のように他の言葉で置き換えのきかないものが出る頻度などは、相互にかかわりがあると考えることができますし、叙事詩のテキストとしての不変性と即興性、あるいはオーラル・コンポジションの可能性の大小とも密接に関連をもっているでしょう(278頁)。
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