アーロン・グレーヴィチ『中世のカテゴリー』

 私は、中世の専門家でもなんでもないけれど、この本、間違いなく名著でしょう。すっごく面白い。世界を生きる個人とその個人の生きる世界が連続的な関係にある中世の世界像が、中世以前のゲルマンの世界観と対比されながら明らかにされていく。たとえば、「中世の人にとってより本質的と考えられたのは、自然現象の象徴的解釈と自然現象から道徳的結論を導き出すことだった」(96頁)といった調子で。で、結局、個々人の個性なるものは、中世にあっては存在しないわけではないが、それぞれの社会的役割から決まってくるようなものであり、とりわけ、信仰を前にすると、とりわけ問題にならなくなってしまうと。

 個人による自分の個性の確認は集団との一体性にあった(445頁)。
 人間のイメージは、その本質にとって外在的な、さまざまな内容を盛った「器」であると考えられていたが、このことは、主権をもつ個人の個性が、この時代には倫理的独自性ということを考えていなかったという事実を最も端的に示すものである(443-4頁)。
 人間の個々の行為はその人間の個々の性質に源を発する。それらの性質はたがいに関連性がなく、したがって、物語の主人公の行動の原因となるのは全体的な個性ではなくて、自立的に作用する別々の性質と力の一種の総合である(442頁)。それらの性質は人間の性格と容易に区別がつく(443頁)。「人間の精神の中でさまざまな力が葛藤するが、それらの諸力の根源は個性の外にある。それゆえに、それらの諸力あるいは道徳的な性質はそれ自体は無人称的であり、美徳と悪徳は一般的な概念である(443頁)。

中世文化のカテゴリー (NEW HISTORY)

中世文化のカテゴリー (NEW HISTORY)