クルーグマン『格差はつくられた』

 オバマ大統領が実現しようとしている医療保険改革、いわゆるオバマ・ケアの支持がなかなか得られないということが報道されていた。ボクが見たニュースでは反対派の方が少し多かったし、たしか、賛成43%/反対49%(でも、どこのメディアがどのようにサーヴェイをしたのかは知らない)、それから映像に映っていた反対派は白人ばかりだったような---。ちなみに、クリントン時代にはたしかヒラリーがこの問題を担当して挫折している(保険業界からかなりの献金を受けたんじゃなかったっけ)。この本を読むと、そのあたりの事情がよく分かる。しかし、クルーグマンがここまで「過激」なことを言うとは思わなかった。
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090813-00000076-san-int

 クルーグマンが、この本で確認し主張しているのは、戦後のアメリカの中産階級は、ニューディール以降の「大圧縮の時代」に政策的に作られていったものであり、1980年代から生じてきた経済的な不平等と格差の大幅な拡大も、グローバリゼーションに帰因するわけではなく、それに先行する70年代に登場した「保守派ムーヴメント」が共和党を乗っ取り過激な政策転換を図ったことによるというものだ。そして、その背景には人種差別がある。

つまり、「保守派ムーヴメント」は、一般大衆の感情にアピールする二つのことを見出し、広い大衆支持基盤を掘り起こすことに成功したのである。その二つとは白人の黒人解放運動にたいする反発と、共産主義のに対する被害妄想であった。この支持基盤の出現は、政治的には周辺的な存在でしかなかった1950年代の「ニューコンサーバティブ」を、長い道の末、無視できない政治勢力へと押し上げた(82頁)。

 国民に対して医療保険制度を提供しない最大の理由もそこにあるのだという。アメリカ人の大多数は国民皆保険の導入そのものに反対しているわけではない。

生まれてきた条件のために医療保険を受けられないと考えるアメリカ人はほんのわずかであり、また世論調査によると、大多数のアメリカ人は、収入のいかんにかかわらずすべての国民に医療保険が保証されるべきだと信じている。---。国民皆医療保険に反対している者たちは、動機的に正しいことをするのは不可能だ、ないしは少なくともコスト−税収の規模を考慮した、現行システム下でサービスを低下させないためのコスト−が高すぎると主張している(157頁)。

そして、この背景に「アメリカの最貧困層には少数派の人種が非常に多いため、いかなる所得再分配もその少数派に分配されることになる」(120頁)という事実を読みとるのはたやすい。

 しかし、財源がないわけではない。「このような複合的な国民皆保険の設立に見積もられた額は、2010年末に終了予定のブッシュ大統領の減税によって削減された額よりもはるかに低い。つまり、このような国民皆保険は、増税を議会に通さなくても実施可能だということだ。民主党の大統領と議会がするべきなのは、ブッシュ減税が終了した際、その分浮いた税収入を医療保険に向けることだけである」(196頁)。

 他方で、まがりなりにも一定の人たちをカバーしてきた雇用主拠出保険の維持が難しくなっている現実がある。また、政治的にも、ヒスパニックの増加等々でアメリカにおける「白人」の有権者数が減少しているし、世論調査によれば、「白人」はより人種差別的でなくなりつつあり、新しいニューディールを実現する可能性は高いというのだが---。

格差はつくられた―保守派がアメリカを支配し続けるための呆れた戦略

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 あるいは、これなんかも。

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