『チェ 39歳の手紙』/『チェ 28歳の革命』

 一作目を見に行ったときもそうだったけど、二作目もおいおいもう終わっちゃうの、上映回数も少ないし、という感じであわてて見てきた。二作通してみると、二つの違いからいろいろ見えてきて面白い。両作品に共通して言えるのは、エピソードの断片が羅列されていくようなつなぎ方がなされていて、ストレートにストーリーが説明されることがないってこと。そして、全編スペイン語
 とはいえ、一本目では、まず何よりも革命がうまくいっているということがあるだろうし(だから、状況が一つにつながっていく)、もう一人フィデル・カストロという別の重要人物がゲバラと別行動を採りながらときどき交差することで、ストーリーの展開が読みとりやすい。
 二本目では、革命がうまくいかない、だから、ゲバラたちにも状況がよく見えず、ボリビア政府の対応ともかみあわないから、われわれもそれにつきあうようなかたちで、何がどうなってるのかはっきりとはわからないまま、チェたちのたどっていくつらい「革命」の道が描かれていくことになる。
 そんな感じで一作目をみたうえで二作目を見ると、二作目ではよりチェ・ゲバラという人物に焦点が集まっていくようになる。そこから浮かび上がってくるチェという人間は、その人格的魅力の一方で、きわめて倫理主義的な性格の持ち主だ。もちろん、そうした性向は、一作目でもおりにふれて描かれており、ラストはチェたちが革命を成就させてハバナへ向かうとき、仲間の兵士が盗んだ車でハバナへ行こうとするのを見咎めるというエピソードで終わる。この終わり方は、二作目を見るときわめて暗示的なものだったことがわかる。
 革命において、とりわけその戦時にあっては、倫理や規律はきわめて重要な意味を持つ。司令官の態度如何で舞台の士気が左右されるし、また、何よりも、個々人の行動や決断のひとつひとつの如何によって当人のあるいは仲間たちの生き死にがかかわってくる。しかも、革命「後」の移行期や平時にあっては、倫理の問題はまた違った相貌を表してくる。これはフランス革命「後」のテルールやスターリンの粛清を見ればよくわかる話だ。
 それでいけば、チェという人物は自らが抱える倫理主義的な態度を、革命後のキューバ社会に持ち込む代わりに、別の場所に革命を求めるというかたちで処理しようとしたのだと言えるのかもしれない。実際、映画のなかでも、彼は倫理主義的ではあっても、それで人を裁いていこうとはしない。
 一本目では、チェが部隊長としてカストロの命令を果たさなかったことが(たしか「外国人だからといって遠慮するな」と言われたはず)、次の戦いでは勝利するとはいえ一時的な窮地を招く誘因になってしまうのだが、それをきっかけにチェ自身が戦いのなかで司令官として成長していく姿が見えてくる。もっとも、その過程で、彼は最前線から離れて、負傷兵の保護にあたったり、新兵の教育にあたったりするのであり、それはチェの性格の際立った側面を照らし出す。
 他方、二作目では、一作目で出てきた状況とよく似た状況がいくつもあり、それがいつも裏目に出る。まず、作戦遂行上、自分たちが「キューバ人」であることを隠さなければならない。都市部の共産党とは協力関係を築けない。地元の農民を保護してやっても、そこから志願兵が出てくることはない。むしろ、彼らが軍に協力させられていく。部隊長が部下ともめてもチェがそれを叱っても、チェの場合のように、それが次のステップにはつながらない。あるいは、一本目では、チェにまともに相手にされないことを嘆く女性兵士が、それでも与えられた任務を続けるなかで認められ秘書的な仕事を担うようになって行くのだが、二作目では「自営地には来るな」と言われている女性兵士がほいほいとチェに会いにきたことがきっかけとなって、チェたちの存在がボリビア政府に知られてしまう。ドブレたち外部支援者は国外にでようというときに行くなと言われた町に立ち寄って拘束されてしまう。そして、行軍の過程にはキューバではあったはずの笑いがほとんどみられない。そんな具合でどこか歯車が噛み合わず、部隊は分断されていく。そんな状況のなかでチェの人格的な魅力よりも、その倫理主義的な性格が際立ってくる。彼の人格的な魅力がようやく戻ってくきたように感じられるのはむしろ捕捉されてからだった。
 というわけで、見応えがあった。そして、倫理主義的な性向とそれが問題になってくるような状況というものについてちょっと考えてしまうところがあった。こうした性向の持ち主は、状況が厳しくなればなるほど、それを乗り越えるためにいっそう倫理主義的足らざるをえなくなるだろう。そして、その厳格さはまず何よりも自らに向けられる一方で(この映画のなかでは彼が喘息の発作に耐えることが一番それをよく示しているんじゃないだろうか)、当然、周囲の仲間たちにもそれが求められていくことになるのだが、そうなると周囲は次第についていくのがしんどくなる。そういう悪循環ってのはあるよな。最悪の場合、それは関係の崩壊を導くだろうが、そんななか革命という大義にこだわりぎりぎりのところで部隊を保っていくというのは、こりゃしんどいよな。とはいえ、安易に人を裁くことなく倫理主義的でいられるよう人物が部隊にいなかったら、状況はもっとひどいことになりかねないのかもしれないけど*1

モーターサイクル・ダイアリーズ (角川文庫)

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革命戦争回顧録 (中公文庫)

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新訳 ゲバラ日記 (中公文庫)

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ゲバラ 世界を語る (中公文庫)

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*1:これ関連するだろうということで、むかし別のところに書いた作文を復活させてみました。http://d.hatena.ne.jp/Talpidae/20060504