いろんなものが足りない

 ニュースを見ていると、反貧困ネットワーク、政財界とでてくるわけだが、ここには何か欠けてるよね。それは何かと言えば、既存の組合、要するに連合はどうしたのかな?と思っていたら。財界の方から、ワーキング・シェアなんて声が出始めている。で、その財界が連合に話し合いを呼びかけたと。まあ、財界が念頭においているワークシェアは、当然、賃金の引き下げを目論んでの話だろうとは思っていたが、労使フォーラムの報道をみて驚いたというか呆れたというかなんというか。しかし、この二つの報道、微妙にずれてるよ*1
http://www.asahi.com/business/update/0109/TKY200901090006.html
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/business/m20090109030.html?C=S
 財界の考えてるワークシェアってのは、現在の正規雇用を維持するから賃下げに応じろというものらしい。そういうのワークシェアっていうの?ただの賃金切り下げじゃない*2ワークシェアって、同一労働同一賃金をベースに、正規雇用と非正規雇用の区別を流動化するところに始まるものじゃないの?一方、連合側はベースアップを要求に掲げてたりするわけで、こっちもまじめにワークシェアをやる気があるのか疑わしい。正規の被雇用者の雇用および雇用条件を守る方が主眼にあるんでしょうね。
 もし本気でワークシェアをやろうとするなら、いろいろ考えなければならない問題が生じると思うんだけど。まず、異様に多い残業時間はどうするの?「失われた10年」以降、リストラと新規採用の抑制で、とりわけ30代、40代の中堅層の労働時間は延びる傾向にあった。で、いつまでも若手の仕事をやらされてスキルアップができないとか、うつ病も増えてるとか問題も出てきていた。今回の景気低迷で短期的には残業は減るのかもしれないけれど、中長期的には人減らしの結果、やっぱり中堅層を中心として労働時間は延びていくんじゃないだろうか?そうすると財界の考える「ワークシェア」って中長期的にはさらなる実質賃金の切り下げや労働条件の悪化につながる可能性が高そうだ。つまり、雇用は増えないのに賃金だけ下がると。賃下げにあたっては、労使でどんな条件を決めるのだろうか?そもそも過剰な残業時間が生じるってことは労働力が足りないってことなわけで、残業が他人の仕事を奪うふるまいだってことを認識しないとワークシェアなんて始まらないでしょう?
 それから、以前ほどではないにせよ、また、職種にもよるだろうけど、ジョブ・ローテーションを組んで、会社ごとに蓄積した知識を社員が身につけていくというスタイルで働くかぎり、同一労働同一賃金といっても、正規雇用の労働と非正規雇用の労働を同じように評価するのは難しいんじゃないだろうか?同一労働同一賃金の原則を適用するにあたっては、職務の専門化を進めていくことが避けられないように思う。とはいえ、過度に専門職化をすすめると日本型の組織のメリットとぶつかりそうだし、職務間の賃金格差が生じるのも避けられないだろう。それから、同一労働同一賃金という以前に、非正規雇用の方が安く雇えるというのもそもそもおかしな話で、正規雇用よりも労働条件が悪いのだから、同種の仕事をする正規雇用の社員よりも賃金は高めに設定されてよいはずだと思うのだが。
 また、ワークシェアを実行すれば、収入が減ることは必至で、今だってそうだろうと思うけど、とりわけ子どもがいる家庭では、夫婦共働き(含パート)が避けられないわけだ。そうすると、時代遅れの配偶者控除は廃止して*3、それぞれの家庭の状況(育児・教育・介護等々)に見合った控除や手当を導入したり、都市圏では足りない育児施設等を増やすとか社会保障を制度的に充実させていくと必要がある(これは新しい雇用を創出しますよ)。それに、付加価値の高い商品を開発生産して、それを売って生き残っていくしかないこの国じゃ、高等教育を受ける機会を保障することは重要な意味をもつはずですよ。このあたりは政府の役割ですな。
 あまりよく知らないことを思いつくままに書いたけど、導入にあたっては他にも手当てすべきことはいろいろあるんじゃないかな。で、夫婦共働きで以前と同じくらいの収入が得られて子どもも持てる、あるいは一人でも食っていけるぐらいの賃金は得られる。それで、以前に比べると、それほど豊かではないけれど、自分の自由にできる時間が増えてというライフスタイルの選択が(これも雇用を促進する可能性がありますよ)、ワークシェアの目指すところだろうと勝手に理解しているわけなのですが、でも、そんな話は聞こえてこない。ボクは何か根本的な誤解をしているのだろうか?いずれにせよ、当面の景気対策と同時に、この先、中長期的な経済状況を見据えた社会構想ってのが必要になると思うのですが。
 

*1:それから、こんなこともあったようでございます。http://news.goo.ne.jp/article/asahi/business/K2009010802520.html

*2:もちろん、先の見えない急激な景気の悪化で賃下げという話がでてくること自体はおかしなことではないと思います。

*3:どう考えても、これってサラリーマンの妻が専業主婦であるってことを標準に想定した仕組みだと思う。同年齢だからというだけで、独身のサラリーマンと妻帯して子どももいるかもしれないサラリーマンの収入が同じだったら、社会の再生産に貢献している方が条件が悪いということになるわけで、これはバランスを欠いている。でも、各自がもっと多様なライフスタイルを選択している現在は、専業主婦を優遇してればすむって時代じゃないでしょう?でも、低所得者層の専業主婦率って意外と高いんだよね。