ダーク・ナイト

 バットマンなんてと思ってたけど、評判がいいので見に行ってみた。アクションもすごいけど、ストーリーもすごい。というか、(ヒース・レジャーの遺作になる)ジョーカーがすごい。結局、バットマンはジョーカーに勝てないわけだ。出だしの銀行強盗シーンにしびれたら、今度はバットマンが香港に逃亡した容疑者を誘拐しにいくなんて話になり、それを見てると、あらら、米軍はパナマでノリエガ将軍を---とか、いろいろ思い出しちゃうし、ジョーカーが「オマエはオレを殺せない。オレもオマエを殺さない。オレはオマエがいなければただのこそ泥だが、オマエのおかげでみんながオレのことを恐れ、オレの言うことに耳を傾ける。オマエがいるからオレみたいなのが出てくるんだ。そして、オレのおかげでオマエの出番もある」みたいなことを言えば、バットマンは返すことばがない。そうすると、これは何のことだろうと考えてしまい、たとえば、ジョーカーにテロリストってルビをふりたくなる。
 ところで、ジョーカーって基本的に心理戦で勝っていくんだよね。相手を挑撥し、怒らせ、あるいは恐怖におとしいれ、ヤツの言葉が自分のアタマの中をかけめぐるように仕向けていく。で、相手を自分と同じ土俵というか自分の土俵にのせてしまえば、意地の悪いヤツの方が勝つに決まっている。バットマンや検事には守らなければならないルールがあるけれど、ジョーカーにルールはあってないようなもの。同じ土俵にのったつもりがジョーカーはそこにいないというわけだ(ちょっとできすぎだとは思いますが)。だからといって、充ちあふれてくる怒りに飲み込まれて自分に課したルールを外れてしまえば、検事やバットマンだってジョーカーと同じ悪に染まってしまう。あの検事の描き方もうまかったなー。結局、コインのように検事は善から悪に裏返り、もともと両義的な世界を生きるバットマンはかろうじてダーク・ナイトとして生きのびる。