昨日のピナ・バウシュたちの公演を思い起こしつつ。夕刻、『サイト』連載の長田弘のエッセイを読んでいたら、ディランが自伝でロバート・ジョンソンについて語っている部分が引用されていた。たしかに、ディランがロバート・ジョンソンの歌について語った部分はとても印象的だった気がするのだが、確認しようにもあの本は実家におきっぱなしだ。
だから、長田のエッセイから孫引き*1
彼の歌は驚くほど簡潔な行を積み重ねて構成されていた。ジョンソンの詩は、わたしの神経をピアノ線のように震わせる。その意味や感情はとても本源的で、聴く者の内側に大きな絵を描く。ひと言ひと言を、一行一行を追っていって理解するのはない。そこにはたくさんの欠けたことば、たくさんの二重の意味がある。
どうしてジョンソンの心はあんなふうに自由に、たくさんの場所に出たり入ったりできるのか、わたしにはわからなかった。彼は、孤独だとも絶望したとも拘束されているとも叫ばない−何者にも臆さない。
あのときロバート・ジョンソンを聴かなかったら、大量の詩のことばがわたしのなかに閉じこめられたままだった。わたしはきっと、それらを文字に置きかえる自由と勇気をもてなかったろう。
そして、長田弘は最後にこう書きつけるのだ。
うたを聴く楽しみあるいは悦びの一つは、そのうたをいま、ここにみちびいただろうルーツをゆっくりと遡っていくことだと思う。うたは発展ではなく遡行なのだ。そうして遡ってゆくうちに見えてくる、うたにのこされた記憶の風景が好きだ。
この連載は「うたと詩の記憶」と題されている。今晩は久々にロバート・ジョンソンを聴いて寝ることにしよう。
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*1:翻訳なら352頁あたりからでした。ついでにディランの伝記映画評も復活させてみました。http://d.hatena.ne.jp/Talpidae/20070305/p1