12月に公開されたとはいえあれこれ3月までやってるからと、ずっと先延ばしにしてきた『実録連合赤軍』を見てきた。話には聞いていたけれど、やはり見ていて正直つらかった。3時間という長さはあまり気にならなかったけど、山岳ベースでリンチされた全員の死が、それこそ墓碑銘を刻むかのように実名入りで確認されていくのだ。なんでこんなことを延々と見せられるの?と思わずにはいられなくなる。
もっとも、それをなぜこんなことが起こったのか?と言いかえてしまうと、この問いはこれまでもいくらも問われてきたし、分析もある。そして、映画を見ていてもそこにあるのはある種の社会心理学的なメカニズムの極端な展開でしかないように見える*1。その余りの悲惨さをのぞけば、似たようなことは学校や職場のイジメでも見て取れる類のものと映り、またそのことにとてもうんざりした。だって、命を懸けていきついた先がそんなところだなんて*2。そんなわけだから、心理学的なメカニズムを事細かにここで確認してもしょうがないと思うし、連赤を論じる人はいくらもいるから、ここでは、ただボクが感じてしまうやりきれなさが具体的にこの映画のどこに現れているのかをもう少し考えてみよう。
まず、この映画のなかでわけても光りを充てられている人物は、森や永田といった中心メンバーをのぞくと、その「かわいさ」ゆえにリンチで殺された遠山、やはり兄貴をリンチで殺された加藤三兄弟の末弟(未成年)、そして、浅間山荘に監禁された管理人の奥さんではないかと思う。
まず、この奥さんを前にした坂口弘の律儀さは、どうしても森を始めとするメンバーの遠山に対する情け容赦のなさと落差を産み落としてしまう。どういうことかというと、山岳ベースにおいて化粧をして指輪をつけたままの遠山は、それゆえに「革命的主体」足り得ないと「総括」を求められリンチを受ける。つまり、(来るべき)「革命的情況」下にあって日常的な感覚を持ち込んでしまうことが断罪されているのだ。ところが、坂口はこの奥さんに、「われわれの味方にならなくてもいいから、山荘の管理人として警察に対して中立でいて欲しい」と言うのだ。でも、「山荘の管理人」とは彼女の日常的な姿じゃないか。「革命的情況」(といって警察とただ銃撃戦を繰り広げることのどこが革命的なのか私にはよくわからないのだが)にあって、山荘の管理人もへったくれもないだろと思うのだが、ここではいとも簡単に中立なんてことが言われてしまう。
もう一つ印象的なのは、山荘にこもって配給制にしていたクッキーを坂東がつまみ食いしたことを吉野が糾弾するシーンだ。「総括」を要求する吉野とごねる坂東を前に、坂口は坂東にちょっとした「自己批判」を求めてそれで「総括」を納めてしまう。そんな些細なことが、山岳ベースでは死にいたる「総括」の引き金になりかねなかったというのに。
こうなるとどうみても収まらないのは加藤弟ではないだろうか?なにしろ、そんなささいなことがきっかけで兄は死においやられているのだ。その兄の死を乗り越えて革命へと突き進んでいこうというのに、当の「革命的情況」にあっては、兄に死をもたらした「総括」のきっかけはもとのきわめて矮小な事柄へと切り詰められてしまっている。あれはなんだったのだ?
また、籠城する赤軍のメンバーは、両親や近親者に呼びかけられて、「父は仕事ができなくなるな」とか言って涙ぐんでちょっとした浪花節が生まれてくるのだが、思い返してみれば、加藤弟はすでに山岳ベースで兄の死という代償を支払っている。いわば、彼にとって浅間山荘の戦いはすでに山岳ベースから始まっていたのだ。だとすれば、これはあまりに無神経な言いぐさ。だからでもあろう。山岳ベースでの「仲間の死を引き受けてわれわれは闘う」と坂東が口にしてみながうなづくとき、加藤弟だけは「自分たちに勇気がなかったからあんなことになったんじゃないか」と叫ぶのだ。「革命的主体」たろうとすることの非革命性。
そんなわけだから、この3人から見ていくとき山岳ベースで殺されたメンバーの死はやはりなんの意味もなかったのだと受け取らずにはいられなくなる。そうなると、あの直視できないほどの「総括」も、彼らの死がまさに無意味なもので、それ以上の何ものでもないからこそあそこまで露骨に描かざるをえないと了解するしかない。まだ喪の途上にあるでも言えばいいのかな。そうすると、そこからボクなんかにあらためて生まれてくるのは、大義にすがって観念を膨らませてしまうことにたいする懸念だということになる。まあ、それがポストモダンってやつだったわけですが。
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