眠り姫

 こないだ見に行ったのはよいものの前半熟睡してしまい、なんだか気になるとはいえ、でもひと月やふた月はあいだをあけたいなと思いつつも、今週一週で終わってしまうので、仕方なしにまた見に行くことにしたところ、今度はよかった。
 ところで、この映画だが、画面にほとんど「登場人物」が映らない。人が映らないとなんだか話のつながりがつけにくくなって、ついついぼーっと映像に見入ってしまう(で、寝てしまう)のだが、それでも話を追いかけていこうとすると、眺めている映像を「前に」語る「登場人物」に自分を重ねながら映像を見ていくことになる(そういえば、最後の方で野口先生は青地先生に向かって「自分が誰よりも一番君のことを分かっている」と語るのだった)。そうすると、次第に「登場人物」の経験がリアリティを剥奪されていくように感じられてくる。青地先生には、結婚も考えないではない男がいるらしいのだが、この男ちっとも映像に出てこないけど、ほんとに実在するんだろうか?それに、青地先生は、誰かの幻影を感じてるみたいなんだけど、その幻影もボーイフレンドもちっとも映らないのだ。
 そんな調子で、「こわいですよ」と野口先生にも言われてしまう青地先生だが、でも彼女はなんだか守られてるような気がする。野口先生の顔は長く、青地先生の顔は大きく丸い。青地先生はよく眠り、眠れない野口先生は睡眠薬を飲む。青地先生がボーイフレンドを追い出した晩、二人は喫茶店で顔をあわせ、それから二人で話すようになる。そのたびに、野口先生はかつて自分の生徒だった西島先生の娘さんのせいで迷惑してると語る。でも、それがあるときは妹で、あるときは姉。この生徒はほんとに実在するんだろうか?青地先生はそれから幻影について語らなくなり、一方、芥川を思わせる野口先生はますます痩せ、そして自殺する。
 でも、眠ってばかりの青地先生には朝日をみるチャンスなんてなさそうなのに、この映画は朝日から始まる。それから、日が昇るなかを車が走っていくシークエンスでは、日が昇りきったところですれ違う女性が、青地先生とおぼしき女性だ。また、冒頭のトイレに誰かいた云々のシーンと連続するようにも思われる、自分の声で目が覚めたというラストでトイレから彼女が出てくるシーンもドッペルゲンガーを思わせる*1。眠る女と朝日を見る女。これはどっちの経験、それとも夢?ここまでおいかけてきたリアリティの浮いた話もまた宙づりになってしまうみたいだ。
 原作も読んでみようかな。サントラも気に入ってます。
http://www.nemurihime.info/
http://www.walkerplus.com/movie/report/report5619.html

夢で逢いましょう (Ohta comics―山本直樹SELECTION)

夢で逢いましょう (Ohta comics―山本直樹SELECTION)

冥途―内田百けん集成〈3〉   ちくま文庫

冥途―内田百けん集成〈3〉 ちくま文庫

*1:なんだか『ふたりのベロニカ』を思い出した。