グラノヴェター「弱い紐帯の強さ」

 この高名な論文をようやく今頃になって院生と一緒に読んだ。面白かった。もっと早く読んでおくべきだった。
 まず、二人が仲のいい友だちであればあるほど、この二人に共通する知人・友人も多いということは経験的に言える。つまり「AさんとBさんの間の紐帯が強いほど、弱い紐帯か強い紐帯かでつながっている個人がS内に占める割合は大きくなる」(125頁)。
 逆に、「強い紐帯A−BとA−Cが存在し、BさんとCさんが互いの存在に気づいているにもかかわらず、BさんとCさんの間に肯定的な強い紐帯が存在しないならば、その状況には「心理的緊張」がもたらされる」(126頁)。たしかに、不倫とか二股状態とかを考えるとそうですな。
 そこで、AさんとBさん、AさんとCさんが強い紐帯で結ばれているとき、BさんとCさんのあいだにいかなる紐帯も存在しないということはない、つまり、弱い紐帯もしくは強い紐帯が必ず存在する、と仮定してみよう。さらに、ここでネットワーク内の2点間をつなぐ唯一の経路をブリッジと呼ぶことにする。
 そうすると、「例外的状況は別として、すべての強い紐帯はブリッジではないということになる」(128頁)。なぜなら、Aさんが複数の強い紐帯を持てば、仮定により、それぞれの相手同士(B-C等)のあいだにもなんらかの紐帯が存在することになる。だから、強い紐帯がブリッジになるとすれば、「強い紐帯で結ばれた二者が、他にどんな強い紐帯も持っていない場合」(128頁)のみに限られる。しかし、こうした状況はネットワークが大きくなると考えにくい。だから、これを例外とすると、すべての弱い紐帯がブリッジとは限らないが、「すべてのブリッジは弱い紐帯である」(129頁)といえる。
 複数の強い紐帯から発達していくネットワークのなかでは、友だちの友だちはみな友だちだとまではいかなくても、少なくとも大半はみな知人であり、互いがほとんど顔見知りの交際圏を作る(弱い紐帯を中心にした顔見知りネットワークも考えられないわけではなかろうが)。他方で、局所的ブリッジをもたらす「弱い紐帯により連結している人々は、自分自身の交際圏とは異なる交際圏に参入している可能性が高く、それゆえ自分が入手している情報とは異なる情報に接しているだろう」(137頁)。で、有名な転職の話につながるわけですな。
 こうなれば、局所ブリッジあるいは弱い紐帯をなるべくたくさん維持できる人が有利な立場に置かれやすいということが言えるわけだが、でも、それを単純にネットワークの効果と呼べるかどうかは議論の余地があるだろう。局所ブリッジあるいは弱い紐帯を手にする機会を多く提供されている人はどんな人だろうか?どうみても学歴や職業、居住地(都会か地方か等)、エスニシティ、性別等によって少なからず左右されそうだ。
 さて、こうした複数の交際圏(クリーク)からなるコミュニティを考えよう。こうしたコミュニティに迷惑施設が建設されることになるときに、どうであれば反対運動が引き起こしやすくなるだろうか?
 だれかが運動のリーダーになるとして、ある交際圏のなかでその人が信頼に足るかどうかを判断するのは容易である。だが、他の交際圏にある人たちが同様の判断をするには、このリーダーの人物を保証し、リーダーに口を利いてくれるような媒介者の存在が必要になる。リーダーにしても自分とかかわりのない人々の期待に応えようとすることはあまりなさそうだ。つまり、リーダーが多くの支持者を獲得し運動を進めていくためには複数の交際圏のブリッジになるような弱い紐帯の存在が肝心なのだ。
 じゃあ、そうしたブリッジが生まれる条件は何かと言えば、個人が一定のコミュニティ内で複数の異質な交際圏に所属しながら生活しているということだろう。「これは、コミュニティにブリッジ機能をもつ弱い紐帯が数多く存在するには、弱い紐帯を形成するための多様な方法や場が存在しなければならないということを意味している」(143頁)。まあ、これってロバート・ダールの多元主義的な民主主義論を思わせるところがありますな。それはともかく、
 そうすると、たとえば、郊外から都心へ通勤するサラリーマンのようなタイプが多く住む地域では、ふだんの交際圏を超えて交わりが生まれることが少なそうだから、運動は生まれにくいだろうな。そもそも居住地への愛着も持ちにくそうだし。東京近郊をみるとこの効果は抜群ですね。
 あるいは、誰もが顔見知りの農村や漁村なんかもそうかもしれない。六ヶ所村で漁民が核再処理施設の建設反対運動を繰り広げたとき、それは漁民を超えた運動にはならなかった。あるいは水俣の漁民暴動だってそうだ。もっとも、水俣では、漁民とチッソの工員とのあいだには弱い紐帯どころか強い紐帯もあったはずなのだが。
 逆に、職住隣接していたり、裕福で時間的余裕があったりして、文化的なサークルなんかも盛んな地域は運動が生まれやすそうだ。そうすると、逗子なんかは確かにそんなところがある。と考えてみれば思い当たるふしも結構あったりする面白い論文でした。

リーディングス ネットワーク論―家族・コミュニティ・社会関係資本

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転職―ネットワークとキャリアの研究 (MINERVA社会学叢書)

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