生物と無生物のあいだ

 これまた話題の本を移動中に。もとが『本』の連載だから、科学者の逸話なんかもでてきて面白く読めるが、いささかかったるくもある。でも、本題から少し外れるなと思った最初の野口英世のエピソードが最後のオチに重なってくるあたり書き方がうまい。高校でならった「生物」の知識だと、生物とは自己複製するシステムであり、ウィルスは生物と無生物のあいだに位置するのだという話で終わってたと思うけれど(いまならどうなのだろう?)、その後の展開を、それもシュレディンガーの『生命とは何か』の話とつながりをつけながら、概観できる便利な本だった。
 生命は、エントロピーの増大に先回りして、生命を構成するタンパク質を作る際から分解している。それでも、マクロでは生命として現象する平衡状態を保つことができるのは、タンパク質の物理的な構造が、パズルのピースのように、相補的になっていて、それに規定されてさらなるタンパク質が合成されていくからだ。しかも、特定のタンパク質が合成できなくなってしまったとしても、それでおしまいかといえば、そのときは別の組み合わせをつくって新たな平衡状態に移行しようとする。だから、「生命とは動的平衡にある流れである」といわれるわけだ。ところで、例の狂牛病は、この隙間をついた現象だということになるようだ。狂牛病を引き起こすプリオンタンパク質は遺伝子の一部が欠損していて、こうした平衡状態を維持できないらしい。『プリオン説はほんとうか?』も読んでみようかな。

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

生命とは何か―物理的にみた生細胞 (岩波新書 青版)

生命とは何か―物理的にみた生細胞 (岩波新書 青版)