院生のお勉強を手伝うために即席でネットワーク論に手を染める必要が生じて、とりあえずいちばん手軽に読めそうなネットワーク論を扱った本ということでこれを手に取ってみた。読みやすく書かれてはいるが、必ずしも分かりやすい本というわけでもなかったりするんだけど*1、手始めにはよかったんじゃないかな。ポイントはなんだったのかしらと、ちらちら読み返しながら、基本的には同質的で密なネットワークと分散的なネットワークという二つのタイプのネットワークについて書かれた本だと考えればいいだろうというところに落ちついた。
同質的なネットワークでは、お互いがお互いの知り合いだったりするわけで、それぞれが組み込まれた人間関係のなかで類似したポジション(構造同値)におかれがちである。そうすると、お互いが互いの足を引っ張る競合的な関係に入りやすくなるし、誰かに相談を持ちかけようにも、その話は別の誰かに筒抜けになりかねなかったりするというわけで、身動きがとりにくくなる。
分散的なネットワークは、メンバーがそれぞれとりかえの効かない人脈(媒介性)を保持しているような人間関係だと考えればいい。それぞれの人脈を利用できる人物が特定されてしまうという意味において、このネットワークは脆弱なものではあるが、同質的で密なネットワークより新しい情報を入手しやすいし、こうした媒介性をそなえた立場にたつ人物はそれだけ自由度が高くなるから、クリエイティブな仕事もやりやすい。
こうした対比は経験的にもある程度うなずける話だが(ただし、因果関係がどちらから効いているのかは議論になりますね*2)、それを理論化し検証した研究があり、この本ではそれが紹介されている。たとえば、こうした分散型ネットワークの利点を確認する議論の草分けとしてよく知られている(ボクでも知ってたぐらいだから)のが、グラノヴェッターさんの「弱い紐帯」の議論であり、これをネットワークモデルに発展させたのがロバート・バートさんの「空隙理論」らしい。また、ダンカン・ワッツさんはこのネットワーク形成を「スモール・ワールド」現象としてシミュレートしている。他方、バラバシさんは、以上一連の概念に対応するランダムネットワークよりも、それと対比される同質的で密度の高いスケールフリーネットワークの作動に注目している。ボクもこっちの方が興味あるな。そして、いまじゃみなさん一通り翻訳が紹介されていますね。ほかには、クロード・フィッシャーさんの研究なんかもこの系列に含まれるようです。
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*1:こんな手厳しい評もありますが、http://cruel.org/cut/cut200411.html
*2:今後確認すべき課題として、ひとまず『新しい社会学の歩み』の該当部分を院生と読んでみて議論になったこと。規定要因としてのネットワークという話がでてくるのだが、ネットワークが規定要因になるということが具体的にどういうことかいまひとつ分からない。逆に、たとえば、友人関係を得る機会は、仕事・バイトや学業などに規定されるところが大きく、なおかつ、仕事・学歴は階層に規定されるところが大きいから、パーソナル・ネットワークの形成に寄与する変数として階層の占める位置はわりと大きくなるんじゃないだろうか?この本では、集団概念に代わるかたちでネットワーク概念が浮上してきたという導入があり、個人の帰属意識の変化を考えれば、そのこと自体はよく分かる。でもネットワーク形成に寄与する変数が階層(あるいは人種・民族、ジェンダー)だったりすれば、かつて集団として問題にされてきたことが、レベルを変えて同じように問題になっていることを確認する話になりそうだ。で、実際のところはどうなのでしょう?