いくつかの所用があって上京した谷間の1日は横浜美術館にあてることにした。じつは、本こそ読んではいるが、森村泰昌の個展はおろか、作品すら直に見たことがなかったのだ【訂正:よく考えたらいくつか見たことがありました】*1。というわけで、出かける。
横浜美術館ってかなり集客をねらった企画をやってるんじゃないかと思うのだが、この企画もかなり凝ったもので、展覧会が授業になぞらえられている。最初の部屋では森村によるHRがあって、そこで企画の説明を受けたあとに六つの展示室と放課後の部屋を回るという酒肴。それぞれの展示室は、貸し出された音声ガイドで森村による授業を聴きながら、作品を見るようになっている。最後は試験もある。
森村がHRで語っていたのは、よく自由に絵を描きなさいとか、自由に作品を受けとめてとか言うけれど、実は自由に作品を鑑賞することほど難しいことはないということ(これはまったくその通りだと思う)。だから、ここでは授業を受けながら作品を自由に鑑賞してもらえるようになれば、ということで展示が進んでいく。
1,2限はフェルメールやゴッホのオリジナルの作品があって、それを模倣した森村の作品があって、という感じだったのだが、でも、すでに三時間目には、レンブラントの自画像を見てるんだか、森村のセルフ・ポートレートを見せられてるんだか、ごっちゃになりかけてきた。だって、音声ガイドの授業はレンブラントの話だけれど、見ているのはレンブラントを演ずる森村のセルフ・ポートレートなんだから。4限には誰でもモナリザ(ピカソではありません)になれますコーナーまであるし(ここは写真可だそうです)、だんだんとオリジナルが何かが問題じゃなくなってくるみたいだ。そうなると、だんだんと音声ガイドもどうでもよくなってきた。
さらにまわっても、ボクが好きなフリーダ・カーロの自画像も5限に模倣の対象になっているのだが、彼女の強い自己主張をなぞるときなんだかそれが別のものになっていくような気がした*2。6限のゴヤの部屋も楽しといえば楽しかったが、ここまでくると、点数も多くなってるし、みんながみんなオリジナルの絵を知っているわけでもないでしょうという感じで、次第にもとの作品よりもそれで遊ぶ森村が際立ってくる。
で、最後に放課後は「自決しない三島由起夫」。それまでの西欧の作品をだんだんと自由に受けとめていくという流れから三島への回帰はちょとべたかな。ある意味、この夏、これに一番近いテーマを『時をかける少女』で確認しているわけですが---。試験は落第しました(嘘)。
9月17日まで。http://www.yaf.or.jp/yma/
「美しい」ってなんだろう?―美術のすすめ (よりみちパン!セ 26)
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*1:森村泰昌を知らない方は、とりあえずこのあたりから。http://morimura-ya.com/、http://www.ufer.co.jp/ufer/morimura/gostage/index.html
*2:彼女にかぎらずメキシコ・ルネッサンスの作品ってなぜか好きで名古屋市美術館へ行ったら、必ず常設展にもよってメキシコ・ルネッサンスのコーナーへ回っている。横浜美術館なら常設展では写真のコーナーもけっこう好きだ。