ウミヒコヤマヒコマイヒコ

 田中泯の舞踏をかねがね一度見てみたいと思っているのだが、それがこういうかたちでかなえられた。この映画は自分は農民だという田中泯インドネシアの農村を回りながら踊る姿をおいかけたドキュメンタリー。まず、農村の深い緑が美しい。そして、そこで労働と遊びと儀礼が未分化なまま営まれる農作業に目を奪われる。そこでは、労働が遊びに移行し、またそれが儀礼に移行したりする。かつてはわれわれの身近で行われていたであろう「失われた労働」の姿がそこにある。
 田中はそうした人たちの傍らで踊る。といっても、それは踊りというよりは、ふらふら歩いているようにも見えたりする奇妙な踊りなのだが。町中で見かければ変なおじさん扱い。しかし、村人はそれを笑って見ている。踊ることは彼らの日常に結びついており、また、寅さんではないが、昔の共同体にはそれこそ変なおじさんがいたものなのだ。
 この映画を見ていると、踊るということが何か特別なことではなく、我々がふだん何かを感じながら体を動かしているとき、それを明確に切り出してきたものであるように思えてくる。たとえば、雪がつもってまだ誰もそれを踏んでいない道を歩くというのはこの年になっても楽しい。そんなときは、一歩一歩雪を踏む感触を味わいながら歩く。あるいは、何かを模倣するというのもそうだ。よく子どもはいろんなものになる。映画のなかで田中は水牛を模倣する。すると、傍らにいた耕作中の水牛がびっくりして早足で歩き始め、村人たちが大笑いする。
 自分が体を動かしている感触を捉えようとすること、あるいは自然の事物が動くときの感触を捉えようとしながら動くこと、そこから踊りが生まれてくるように思えた。

ウミヒコヤマヒコマイヒコ―田中泯ダンスロードインドネシア写真集

ウミヒコヤマヒコマイヒコ―田中泯ダンスロードインドネシア写真集

田中泯 海やまのあひだ Min Tanaka Between Mountain and Sea

田中泯 海やまのあひだ Min Tanaka Between Mountain and Sea

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