原稿の手直しをしながら、昨日ふと見かけて購入した『KAWADE道の手帖 武満徹』を読了。最近はこんなのばっかしだが、久々に読んだ武満徹のエッセイはやはりよかった。学徒動員のさなかに聴いたジョセフィン・ベーカーとの出会いを綴った「暗い河の流れに」も再録されている。そのむかし、これを読んでジョセフィン・ベーカーを買ってみたのだった。
いまさらだが、あらためて確認することになったのは、武満徹にとって音楽あるいはむしろ〈歌〉はなによりも〈他者〉であったということだ。つまり、歌はわたしにとって徹底的に異質ななにかであり、そうであるが故に、わたしの内側に未知なるものを呼び起こす。だからまた、それを介して異質なものの存在が受容され、他者と結びあう可能性に開かれる*1。
「私があのとき聞いた歌は、絶対にジョセフィン・ベーカーでなければならなかったが、私はそれと出会ったことで、もう昨日の私ではなかったし、その歌も姿を変えてしまったのだ」(30頁)。
「これは真に孤独な感情であり、それだから訴える力をもつのだ。この歌は、個人的な感情から発しているがために、新しい連帯の可能性をもつのである」(43頁)。
「歌はあくまで個人の感情から出発するものであって、まちがった共同体意識が今日の流行歌を危険なものにしている。流行歌には社会的効用などあってはならぬ」(42頁)。
「私たちにとって、もっとも恐ろしいことは、政治機構の中で、人間が生きた人間的共感を失ってしまうことだ。私たちは、〈他者〉を喪失しては愛しあうことはできず、憎しみあうことすらない。人間にとって、国家はその全体ではない。国家の論理についに従うことのない〈他者〉によって私たちは全体へつらなる。そして、その全体においてのみ〈自己〉は新たになる」(31頁)。
「私たちは、〈世界〉がすべて沈黙してしまう夜を、いかにしても避けなければならない」(35頁)。
なんて書くと、たいそうな感じがするかもしれないが、「友人と酒を飲むお金、好きな本を買うお金、見たい映画を見るお金、そして終電車に乗れなかったときのタクシー代さえあれば満足な人でした」という、大竹伸郎が好きで、デイヴィッド・シルヴィアンが好き、でも、アルヴォ・ペルトは嫌いだったらしい、『バットマン』のプリンスを愛聴した人物、生まれ変わったら犬になるらしい人の音楽を単純にもっと聴いて見たくなった。とりあえず「ノーヴェンバー・ステップス」と『フィルム・ミュージック』を引っ張り出してみたが、たしか小学館から全集が出てるんだよなー。
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