先日亡くなったムスティスラフ・ロストロポーヴィチをとりあげたソクーロフのドキュメンタリー。世界的なチェリストだったということ以上ろくに知らなかったのだが、映画にあわせてさらに衛星放送で再映されたドキュメンタリーも見て、これほどの人物をこれまでろくに知らずにきた自らの不明を恥じた。ちなみに、ドキュメンタリーの一本は小澤征爾とのR・シュトラウス「ドン・キホーテ」の制作過程を追ったもの、もう一本は、東欧の変動期にモスクワ特派員としてならした小林和男が、かなり大胆に、ロストロポーヴィチの生涯について尋ねていくインタビュー。
あまりクラッシックを聞かない人間がこんなことを言ってもあれだが、ちょっと聞いただけでもそのチェロの音には圧倒されるし、それに彼が語る作品解釈や作曲家論が加われば、この人おそろしいまでに作品を解釈する想像力を持っているのだと感じずにはいられない。また、彼が自らの波乱に満ちた生涯を振り返るのを聞けば、いまや忘れられかけた「良心に従って生きる」という言葉を思い出させてくれる。しかも、自分のなしとげてきたことに自信を持ち、その評価を自然と受け入れつつも、決して偉ぶるわけでもない態度にも好感がわく。
ソクーロフが、彼をとりまくいくつもの顔を並べながら、そうしたロストロポーヴィチの豊かな表情をとらえていくのが何ともいえない。子どものような表情も、演奏に向かう厳しい顔も。ロストロポーヴィチをとりまく顔のなかでも、ソクーロフが本人以上に関心をよせていくのが著名なソプラノ歌手でもあったその伴侶ガリーナ・ヴィシネフスカヤの顔であり、−なにせこの変人と半生をともにしてきたのだ−、彼女の経歴がロストロポーヴィッチのそれと並行して紹介され、彼の傍らに居続けた彼女の表情がとりだされてくる。それがまたよい。
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ついでに、以前某掲示板によせた『太陽』評を再掲したので、関心のある方はどうぞ。
http://d.hatena.ne.jp/Talpidae/20060925