野火

 実は、塚本版の前に市川崑が作品化していると聞いて、是非とも見たいと思っていた作品。塚本作品はわりと忠実に市川版をなぞっているという話を聞いていたのだが、たしかにそういう面はある。しかし、塚本作品は、かなり主人公の主観に依拠した作りになっているのに対し、市川版ではもっと引いた感じ(もっとも、しゃべりでは主人公ののモノローグが入りますが、これも突き放したような感じ)。それから、野火の含意がはっきりする一方、肝心なシーンはなかったことになっている。これはラストシーンの違いでもはっきりしてくるように思う。また、モノクロなので塚本版のように自然と戦場を対比するような映像にはなっていないが、風景も含めてやはり陰影の対比は見せるし、いま見るといちばん感じさせられるのは役者のしゃべり方だな。これは、市川版の方がリアルなんだろうと思う。
 この映画は、大映作品で永田雅一製作、音楽は芥川也寸志。一方、塚本作品は製作費を集めるのに難儀したという。しばらく前に、ツイッターで塚本さんがエキストラ募集してると思ったら、この作品のためだったんですね。トライしたかったけど(あの頃、ガリガリだったし)、仕事を考えれば到底無理でした。それはともかく、この落差はなんなのだろう。塚本作品はもちろん、市川作品もいまでも十分見る価値がある。ってか、市川版みてもう一度塚本版もみたくなってしまった。あ、主人公は船越英二です。

野火 [DVD]

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野火(のび) (新潮文庫)

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文章読本 (中公文庫)

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塚本晋也×野火

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