化けものの子
今夜は『化けものの子』を見てきた。見ながらアタマに思い浮かんできたのは一連の通り魔殺人事件のことだった。場所も渋谷のど真ん中です。ある意味、われわれは化けものの子なんだろうな。それとも、私ぐらいになると化けものかな。なんせ新人類と呼ばれたこともあったからね。
前作『おおかみこどもの雨と雪』が、子育てのやり方を知らない母親が子育てする物語だったとすれば、本作は、子育てに期待できない、一人で育っていかなければならない人間(化けものの子)はどうやって育っていけばよいのかが主題ってことになるんだろうな。そういう意味では続編であり(実際、前作でも男の子の方は師を見つけます)、きわめてアクチュアルな問題を扱っています(「蓮は泥より出でて泥に染まらず」?)
実際、化けものの世界に迷い込んだ主人公の蓮とその師匠である熊鉄の関係は鏡のようだと例えられる。周辺も含めてこの仲間たちは孫悟空のようです。蓮は熊鉄のマネをしながら学び、それに応えることで教える側のだらしのない熊鉄も教わる側の蓮も成長していくのだ。この二人の関係はあくまでも師と弟子でありせいぜい父代わり。家事をするのは弟子の蓮だし、二人で兄弟みたいにケンカもする(猪王山の子ども二人と比べて見ましょう。長男にとって立派な父は師たりえなかったのです)。途中で父親とも再会を果たすが、師のもとに戻るのだ。
そんな感じなので、出だしは『千と千尋の神隠し』を思わせても途中から変化していきます。主人公にはおまけみたいなチビ助が(化けものの子?)がついてきます。これはなぜアニメの王道パターンなのでしょうね。それはともかく、二つの名前をもっても、二つの世界を行ったり来たりできるのです。そして、双方の世界から学ぶことがある。
そんな蓮がもう一度人間の世界に迷い込んだときに出会う楓は、蓮に人間の世界のことを教えてくれる一方で、同じ「心の闇」を抱えた存在として描かれる(から、彼女の存在がいちばんべたというかストーリーのなかに無理矢理押し込んだ感が少しある)。いずれにせよ、人に教わるためには自分から学ばなければならないのですよ。さらに、教えてくれる人が誰かは重要ではなく、教えてくれる人がいることが大切なんですよ。しかも、教えることも学ぶことにつながります。
そして、次の宗師をめぐって熊鉄のライバルにあたる猪王山の長男、一郎太も実は人間の子で「心の闇」を抱えた存在として描かれている。そして、心の闇を爆発させた一郎太は最後に渋谷の街で鯨に化ける。あの嫌な渋谷駅といまは亡き国立競技場がでてきます。この辺は予定調和かな。でも、なぜ鯨?
他方、蓮が図書館で初めて手にとり、楓に読み方を教えてもらうのがメルヴィルの『白鯨』で、そのなかでエイハブ船長が追いかけている白鯨が自分自身のようだと感じる件が引かれている。その一節が一郎太の目に入るんですね。つまり、鯨になった一郎太とそれに立ち向かう蓮、さらには楓は互いに互いの分身なのです。この三人は腕にまかれた赤い糸でつながります。蓮のなかには熊鉄がいます(「一蓮托生」?)。というわけで、この作品では4人の分身がストーリーを構成することになる。
ただ、前作同様けっこうCGが使われていて、アニメ作品としてはジブリと比べてどうなのかなと思ってしまったりもする。最後に、この作品の英語のタイトルはThe Boy and The Beast、つまり『美女と野獣』を思い出してしまうのです。しかし、いま化けもの子と言えばアイツだろう。
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