静かなる男

  ガキの時分、テレビで放映される西部劇を夢中でみていた(それだけじゃないけど)。追いかけていくのは、ジョン・ウェインであり、何よりもジョン・フォードであり、ハワード・ホークスであった。彼らがどれだけ偉大であるかも知らずに。
 そんなジョン・フォード作品のなかでジョン・ウェインが主役のわりには随分となごやかな『静かなる男』という映画があった。テレビで一度見たっきりである。それが全編ロケで撮られているということにすら気づかなかった。ましてや「イニスフリー」なんて。
 そんなときがすぎて、ホセ・ルイス・ゲリンの回顧上映があったときに『イニスフリー』というドキュメンタリーを見た。それは、ジョン・フォードが『静かなる男』を撮影した「イニスフリー」をたどり、撮影に立ち会った人々から話を聞いていくドキュメンタリーだった(キャスルタウンは実在するそうです)。とにかく、その「イニスフリー」の美しさに圧倒された。
 で、もう一度『静かなる男』を見ることはできないものかと。もうテレビですらフォード作品を見ることは一部を除いて難しい。いや、それ以前に、無知だった若き日の私はフォードの偉大さを何も感じることができず、ただの西部劇の映画監督だと思っていた。(それも間違ってはいないと思うが)。なんとかスクリーンでフォードと再会する機会はないものかと思っていた。それが今度のデジタル・リマスター上映である(デジタルであることはおいておこう)。『駅馬車』ともう一つかかるのが、なんと『静かなる男』なのでる。ところが、午前中一回しかかからない。何度かの機会をのがしてなんとか『静かなる男』だけは見ることができた。
 いやとにかく美しい。「イニスフリー」の光景も、そこで立ち回るモーリン・オハラにその衣裳、吹き荒れる風。しかも、きちんとアイルランド語もでてくるし、カトリックと新教も、共和国派と英国派もでてくる。『駅馬車』を見損なったのが一生の不覚という他はない。お願いです。これからもスクリーンでフォード作品を見せてください。
 

静かなる男 [DVD]

静かなる男 [DVD]

イニスフリー [DVD]

イニスフリー [DVD]