自叙伝の試みでも和辻のスタイルは相変わらずだな。でも、おかげで日清、日露あたりの明治の地方の様子というものがよくわかる。尋常小学校では「君が代」を歌うことはなく、「御真影」もなかったと。ただ、「教育勅語」は聞いた覚えがあると。まだ、谷崎との出会いまでもいかないのだが、勝部本にあった東京にたいする意識というのは一高時代の話を読んでいると感じるな。もっとも、「山鹿素行が「士道」として説いたような武士の道徳、即ち武士の生活の中へ取り入れられた儒教道徳を紹介することが、日本人に対する正しい理解を作り出すための有力な手段であったというようなことは、後になってやっと解ったことで、その当時はまるで見当もついていなかった」(580-1頁)。しかし、一高時代まででこの長さである、一生を振り返ったらどうなったんだろう。最後は狭心症だったんですね。
- 作者: 和辻哲郎
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1992/04
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