MUD
なぜかタイトルを『MAD』と勘違いしていて候補外にしていたのだが、仄聞するところ評価が高く、タイトルもよく見てみれば『MUD』。つまり、泥とかぬかるみですね。それからヌママムシなんてのも出てきて、最後にこれが生きてくるんだよな−。
主人公の少年が出会うのがマッド。マッドはマッド、ひいてはぬかるみで生きるヌママムシなんですよ。で、最初の河のシーンからたまらない。冒頭からいくつもの映画的記憶を喚起するような情感あふれる映像が続く。
この映画、言ってみれば二重の成長譚になっていて、少年はマッドに惹き付けられ危ない世界に足を踏み入れ、ヌママムシにかまれるのが話の転換点になる。少年とその友人を利用していたマッドは、この少年を助けようとして、自分の泥沼(マッド)的状況から抜け出す一歩を踏み込むことになる。そして、その過程で、二人とも初恋の女性を断念する。
それから、この映画、エディプス・コンプレックスを拒絶している。主人公の両親は離婚しようとしてるし、父は父親としては駄目な人。友人には両親がなくおじさんと暮らしている。マッドにも父親みたいな人物が出てくるけど、これもおじさん風。そして、このマッドは、異人ではあるけれど、主人公にとってはおじさんの位置を占めてる。
文化人類学の知見に、父親とは別に、無責任だけどその分、いろんなことを教えてくれるおじさん的存在というのがでてくる。たとえば、夏目漱石の『こころ』の先生がそんな感じだ。昔、朝ドラ、「あぐり」だっけ、で吉行エイスケの人物設定をみて、この人、父親というよりおじさんだなと思ったことがある。
他方、マッドに息子を殺された父親はいかにもマッチョな父親でエディプスを体現するような人物なのだが、復讐のためにかえってもう一人の息子も失うことになる。つまり、ここではエディプス・コンプレックスが脱臼してる。
といった能書きはどうでもよく、何も考えなくても楽しくみていられる。とくにクリント・イーストウッドが、あるいは『スタンド・バイ・ミー』とか好きなら。やはり、ハリウッドはあなどれない。
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