心的外傷と回復

 次はこれ。以前、途中まで読んで放り出していた本だが、いま読むとかなりうなずかされるところが多い。外傷的な出来事が、基本的信頼を崩壊させてしまう。そうすれば、個人は恒常的ないし反復的な不安や恐怖におそわれ、自分自身でいるのが難しいだけでなく、他人と安定したかかわりを築くのも難しくなってしまう。
「人間関係的生活に与える打撃はもともと外傷の二次的効果と考えられていたが、そうではない。外傷的事件が一時的効果を与えるのは自己の心理学的構造だけでなく、個人と地域社会とをつなぐ感情的紐帯とのシステムに対してもである」(75頁)。
 これがどこまでいくのかを明らかにしていくにあたって、リフトンの研究や《回教徒》の話も出て来る。「被害者の心理的支配の最終段階は、被害者みずからの倫理原則をみずからの手で侵犯しみずからの基本的な人間的つながりを裏切るようにさせてはじめて完了する。心理学的には、これはあらゆる強制のテクニックの中でもっとも破壊力が強いものである。屈服した被害者は自己を嫌悪し憎悪するようになるからである」(125-6頁)。あるいは、そこでダブルシンクが発達するという議論も。そして、これは『アサイラム』にもかかわる話である。

心的外傷と回復 〈増補版〉

心的外傷と回復 〈増補版〉